松に鶴(3)

 松に鶴は画題として定着していますが、まだ目にする機会のない作品が一点あります。

 朽木家となん、探幽が画ける松に鶴とやらんの重器あるよし。右時代に素人にて久須美六郎左衛門といへる名人の画書ありしが、朽木に於て探幽が書る松に鶴の絵をみて、「面白からざる」よしあざけりし故、探幽来りし時主人其咄しをなしければ、「久須美が言へる尤なり。認直さん」とて、書直して置しを又久住に見せければ、「宜舗」由にて、強て称美もせざりし故、又探幽を招きてしかじかの事と語りければ、「又書直すべし」とて認直しけるを、重て久須美に為見ければ、大に感賞して、「探幽は誠に奇妙の画才也。おなじ絵を三度まで我意なくして書直せし形様、何もかはらず自然に其妙あり」と、委く賞嘆したる由。依之今朽木家の重宝となりけるよし。

(『耳嚢』巻五「探幽画巧の事」)
 岩波文庫本の注によると、朽木家というのは丹波福知山三万二千石の大名とのこと。狩野探幽が二度描き直して完成させた名品「松に鶴」は現存しているのでしょうか。