「漢風の本棚」解題(1)

「これ、全部、読んだんですか」とよく訊かれるが、「まったく読んでいません」と正直に答える。本当に読んでいないのだ。まったく――ということはないけれど、うちの本棚には、まだ読んでいない本がたくさんある。それが何より嬉しい。

――クラフト・エヴィング商會
 先日本棚の一部を公開したら(クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』――趣味は「読書」「古書蒐集」について - Cask Strength)、ここに写っている書籍を解説せよ、との要望が・・・。
 それにしても、人に本棚を見られるというのは、頭の中身を透視されているようで、少々落ち着かないですねw
 でも、久しぶりに手に取る本もありますし、ひょっとしたら少しは何かの役に立つかもしれないので、一言二言の、非常に簡単な(主観丸出し)説明をしようかと思いました。全部一気にやると長くなるので2、3回に分けて。今日は上段。左から右に。

  • 『唐人軼事彙編』上・下

『唐人軼事彙編』引用書目(1) - Cask Strength 『唐人軼事彙編』引用書目(2) - Cask Strength 『唐人軼事彙編』引用書目(3) - Cask Strength

楊勇氏に同名の書あり(修訂本、4冊)。本書は本編の部分で役に立ったことはあまりないのですけど、下巻巻末附録「世説新語詞語簡釈」(499〜554頁)は、ためになります。

  • 『日蔵弘仁本 文館詞林校証』

『文館詞林』の校点本。点を打ってあるだけに非常に読みやすいのですが、結局、チェックのために影印本『影弘仁本 文館詞林』(古典研究会)は必要。(どこかに怪しい翻字があったはずですけど、忘れました)

  • 『潘岳集校注 修訂版』

最近よくある劣悪な校注本に比べると、注釈部分は良心的だと思います。叩き台に。

  • 『建安七子集』

右にある『建安七子集』の初版(1989年)。

  • 『玉台新詠箋注』上・下

手軽なのが良いのですが、『玉台新詠索引 附 玉台新詠箋註』(山本書店)の影印本の方を使うのが癖になっているので、あまり見ていません。

  • 『盧照鄰集校注』

尚書氏『盧照鄰集箋注』とともに重宝しています。『箋注』の方が、中文書によくある、固有名詞に傍線・波線を引く体裁なので読みやすいですけど。

  • 『建安七子集』

再版(2005年)。増補改訂されているので、使うべきなのはこちら。語句の注釈はおこなわず、校異だけを示していますが、『建安七子詩箋註』(これも非常に良い本)が詩しか扱っていないので、やはり本書が基本テキスト。

  • 『三曹詩選』

孔明君氏の選注。使っていません。

  • 『隋唐嘉話 朝野僉載』

歴代史料筆記叢刊・唐宋史料筆記のシリーズ。便利なのですけど、今は福田俊昭氏『朝野僉載の本文研究』(大東文化大学東洋研究所)があるので、あまり見ていません。

  • 『昭明太子集校注』

伝統的な古典注釈のスタイルで、良い注釈だと思います。「附編」で「錦帯書十二月啓」のように、真作でない作品・疑問のある作品も収録しているのは案外便利です。

  • 敦煌本古類書語対研究』

『語対』は類書の一種で、主題ごとに2字もしくは3字の熟語を集めるスタイル。「校箋篇」の部分は『敦煌類書』にそのまま再録されていますのでご注意を。

  • 『拾遺記』

『拾遺記』は信頼できるテキストがない(小説類は仕方がない)のですが、使うとしたら本書(斉治平氏校注)が標準ではないかと。

  • 『王績詩文集校注』

王績の作品に関しては『王無功文集 五巻本会校』(上海古籍出版社)の方が校異を丁寧に出しているので、まずそれを使います。本書は語句の注釈を見るために。でもそれほど役には・・・。

  • 『王子安集註』

王子安とは王勃のこと。蒋清翊による注。これぞ清朝考証学の面目躍如といった感じの素晴らしい注釈書ですね。まあ、それでも王勃の作品は読めないですけど。影印本もあるのですが、こればかりはこの点校本が見やすい。

  • 『謝朓 庾信詩選』

『三曹詩選』よりは使う機会が多い。

  • 『中国古典詩集』

世界文学大系筑摩書房)。このシリーズは古いのであまり参照していないという人もいるでしょうけど、とんでもないことです。本書は唐詩・宋詩・宋詞を一冊に収めているのが便利で、ほかの選集になかなか入っていない作品も選ばれていて、良書。

  • 『文選』

本書については少し詳しく説明すべき点が多いかもしれないのですが、一つだけ言うと、「古詩十九首」と「飲馬長城窟行」の部分は斯波六郎氏の遺稿です。そして、その部分は『六朝文学への思索』(創文社)に収録されました。

  • 『中国散文選』

「伝記篇」「書簡篇」「雑文篇」に分類。時代は古代から近現代(民国)まで。実はちゃんと読んだことはない。

 ところで、世界文学大系といえば、ここには写っていないですけど、『論語 孟子 大学 中庸』が実は非常に良い。そのことはまた日を改めて。

  • 『《盧思道集》校注』

尚書氏(前掲)の注。盧照鄰の注釈をやったことが契機になって研究を進めたということのようです。相変わらずの詳注。