「五経」入門でも「六経」

五経入門―中国古典の世界 (研文選書)

五経入門―中国古典の世界 (研文選書)

 twitterでフォローしている方の情報で刊行を知りました。まだ1/3も読み通していないのですが、わかりやすさを旨とした記述でして、また、章末の参考文献一覧は「テキスト」「翻訳書」「概説書」「専門書」に分類して詳しく紹介しており、一歩先の勉強に踏み出す気分に誘う優れた入門書だと感じました。
 ただ、不思議なのは(ツイートもしましたけど)57頁の記述でして、

・・・本書『中国古典の世界』が伝承文献としての『易』の概説書でもあるということもあって、「帛書易経」についてはほとんど言及しない。

 「中国古典の世界」は本書の副題です。しかし、この書きぶりからすると、刊行直前まで「中国古典の世界」こそが本書の主題であって、何らかの理由でそれが副題に変更され、この箇所は訂正されることなく残ってしまったのではないか、と思わせます。よくわかりませんが。
 もう一つ、予備知識のない読者がおそらく疑問に思うのは表紙でしょう。

 『礼記』「経解」篇の冒頭部の影印でして、経書の書名を色分けしてハイライトしています。良いデザインだと思います。でも、数えてみると、六つある。五経(「易」「書」「詩」「礼」「春秋」)プラス「楽」で六経。五経に整理される前の、伝統的な「六芸」(六経)の分類になっているわけです――「案、鄭目録云、名曰『経解』者、以其記六芸政教之得失也」――。本書は「五経」の入門ですが、表紙では「楽」を無視するわけにはいかなかったということでしょう。
 しかし、本文中では「楽」についてはほとんどスルーされています。第一章「中国古典の分類法」では『漢書』芸文志や『隋書』経籍志にも当然言及されているので、そこで簡単に触れる機会はあったはずなのですが。第五章第二節『礼記』の小節「「楽記」篇」(190〜191頁)に至ってようやく「六経」の一として数えられた「楽」について説明がなされるのですが、序章や第一章の辺りで一応おさえておいてもよかったのではないかと思われます。