- 作者: 白石良夫(全訳注)
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/04/13
- メディア: 文庫
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「思ひくづをれて止むることなかれ」
「初学の輩、まづ此漢意を清く除き去りて、やまとたましひを堅固くすべきことは(以下略)」や、「道をしらんためには、殊に古事記をさきとすべし」や、「二典の次には、万葉集をよく学ぶべし」や、「みづから著せる物*1を、かくやむことなき古書どもにならべて挙ぐるは、おふけなくつつましくはおぼゆれども」などの、いかにも宣長らしい物言いばかりが注目されていますが・・・。
学問を志す人間にとって心強い励みになるのは以下のことばです。
詮ずるところ学問は、ただ年月長く倦まずおこたらずして、はげみつとむるぞ肝要にて、学びやうは、いかやうにてもよかるべく、さのみかかはるまじきこと也。いかほど学びかたよくても、怠りてつとめざれば功はなし。
又、人々の才と不才とによりて、其功いたく異なれども、才・不才は、生まれつきたることなれば、力に及びがたし。されど、大抵は、不才なる人といへども、おこたらずつとめだにすれば、それだけの功は有る物也。
又、晩学の人も、つとめはげめば、思ひの外、功をなすことあり。又、暇のなき人も、思ひの外、いとま多き人よりも功をなすもの也。されば、才のともしきや、学ぶことの晩きや、暇のなきやによりて、思ひくづをれて止むることなかれ。とてもかくても、つとめだにすれば出来るものと心得べし。すべて思ひくづをるるは、学問に大にきらふ事ぞかし。
(53〜54頁)
白石氏による「解説」によって補いましょう。
これから先、日本は文系・理系をとわず、知的基礎体力をつける発想もシステムもなくしたまま少子化に突入してゆくのではないか、という危惧をわたしはもつ。基礎学そのものは、金を生まない。だが、ながい将来にわたって民族の繁栄を支える技術や思考、それを創生し鍛えてゆくには、そのための基礎体力が要る。その基礎体力となるのは、結局、社会との接点が見えにくい学問、つまり〈虚学〉(=教養)と呼ばれるものであるだろう。
『うひ山ぶみ』は、「いにしえまなび」という虚学(教養)の入門書であり、「持続こそ力なり」を実践した碩学の、後進に送るエールである。かつて、多くの日本の向学心に燃えた若者たちは、「思いくずおれて止むことなかれ」ということばに励まされた。それは、〈虚学〉が社会から見棄てられそうになりつつある現代、それでも〈虚学〉にこころざす若者にむけた励ましとなるであろう。
(44頁)
蛇足
「注釈」中にたまに書名などの固有名詞の読み方で気になるものがあるのですが、ルビ等はさておき、以下のものは内容的に事実誤認だと思います。
(114頁、「私記の説といへども・・・」の注)