琉球の船が運んでいた書籍(「『耽羅紀年』に見える琉球関係記事」)

 済州島の歴史・地理について記録した書『耽羅紀年』(金錫翼著、1918年刊)の名を知ったのは、金関丈夫「『耽羅紀年』に見える琉球関係記事」(『琉球民俗誌』法政大学出版会、1978年。初出1956年)によってでした。

 清朝に入って、次の記事がある。
   庚戌、(正祖)十四年、清・乾隆五十五年(一七九〇)
   B 琉球国那覇府の人、貴日浦に漂到す、頭に着する所無し、一髻両簪、身に青斑布の周衣を着す、船上に大旗を建て、上に太極を画き、下に順風相い送るの四字を書す、船中に論語・小学・中庸・実語教・童子訓・古哥集・節用集・三国志・百重暦有り、

(52頁)
 金関氏も指摘していますし、見て明らかな通り、和書が含まれていることが注意されます。ということは、これら書籍を同時に同じ場所で買い求めたのだとしたら、琉球人は『論語』等の漢籍を和刻本で購入していた可能性が高いことになります。
 そして、私が特に興味深いと感じるのは、彼らがわざわざ日本で何を買っていたかというと、幼学書あるいは辞書や暦といった実用書だという点です。
 そのなかにあって『三国志』だけが、やや異彩を放っています。ただし、これが和書のグループの方に含まれていることからすると、あるいは、我が元禄年間成立の『通俗三国志』のことかもしれません。
 一つわからないのは最後の『百重暦』です。ひょっとしたら「重暦」は「長暦」の誤りでしょうか。私は暦学に疎いので、どなたかご教示くだされば幸いです。

琉球民俗誌

琉球民俗誌

 新版が出ているようですね。