新発見の真福寺本『日本霊異記』下巻序冒頭部について

 すでに前田本との対校も一部おこなっている 今朝のNHKニュースで報じた 大須観音から見つかった"未発見『日本霊異記』の巻頭部分”は元々大須観音にある「真福寺本」『日本霊異記』に欠けていて、前田家本には存在する下巻序: 天漢日乗 の驥尾に付すというかたちになりますが。

諾楽右京薬師寺沙門景戒録
 夫善悪因果者、[大須観音本闕 前田家本有「著於」]内経。吉凶得失、載諸外典。今探是賢劫[大須観音本闕 前田家本有「尺」]迦一代教分[前田家本作「文」]、有三時。一正法五百年。二像法千年。三末法万年。自仏涅槃以来、迄于延暦六年歳次丁卯、而逕一千七百[大須観音本闕 前田家本有「廿」]二年。適正像二而入末法。然日本従仏法伝適以還、迄于延[大須観音本闕 前田家本有「暦六年両」]逕二百卅六歳也。夫花咲無声。鶏鳴無[大須観音本闕 前田家本有「涙」。以下七字闕]観代修善之者、若石岑[前田家本作「峯」]花。作悪之者、似立[前田家本作「土」]山毛。
以下略

http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2012/12/post-5be0.html

 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121201/k10013883241000.html
 まず、翻刻に関していくつか補訂の試みを。(ブラウザ上の画面で見た感じなので私案も不正確であることを懼れます。ご寛恕を)
 「夫善悪因果者、[大須観音本闕 前田家本有「著於」]内経」、非常に微妙ですが、むしろ「者」を脱していて、「夫善悪因果、著於内経」の可能性も。よく見ないとわかりません。
 「今探是賢劫[大須観音本闕 前田家本有「尺」]迦」、真福寺本では「釋」の字に作っているのでは?
 「自仏涅槃以来」、「涅槃」と「以来」の間に何か一字ありそうです。
 「迄于延[大須観音本闕 前田家本有「暦六年両」]逕二百卅六歳也」の部分、「両」は「而」の誤り。また、「卅」は真福寺本では「三十」です。

(『尊経閣善本影印集成40 日本霊異記八木書店。カラー口絵)
 「鶏鳴無[大須観音本闕 前田家本有「涙」。以下七字闕]観代修善之者」、「観代」の上に「斎(?)祀頃」の三字がわずかに読めそう・・・。この箇所、前田本にも来迎院本にもない異文なので注目。というよりも、これは序文の訓釈に「祀頃【二合止之吉呂】」とあるものに相当する箇所ですね。この箇所が出てきた意義は大きい。
 「似立[前田家本作「土」]山毛」ですが、これは真福寺本も前田本と同じ「土」ですね。写本でよく見かける「土」に「ヽ」を打ったかたち。

(前掲書、10頁)前田本もそうなっている。


 「以下略」とされた部分で注目すべき点をいくつか。

 まず、前田本・来迎院本等で「石」+「善」のようになっている字、

(前掲書、10頁)
 真福寺本では「にんべん」になっているように見えますね。
 後ろから二行目、「無目之人履□(虎+虎+貝、のような字*1)尾、其嗜名利殺生」云々の部分は前田本では「無目之人履叵失之兮、虎見尾、嗜名利殺生」に作る。注目したいのはこの難しい漢字で、実は、似た字が来迎院本の方に出てきます。

(『日本古典文学影印叢刊1 日本霊異記 古事談抄』貴重本刊行会、72頁)
 なお、来迎院本の本文との近親性は二行目の最後から最後の行にも認められまして、前田本では「疑善根悪報、遄来如鏡、託鬼之人、抱毒蛇、莫朽之」云々となっている箇所が、真福寺本では「疑託鬼之人、抱毒蛇、莫朽之兮(?)、悪種□(「叵」か)失(?)之兮(?)、善根悪報、遄来如水鏡、向」のように見えますね(よく読めないので句読はいい加減。なお、【追記】を参照してください。)*2。これ、来迎院本とほぼ同文です*3

(前掲書、72頁)
 というわけで、よくわからないことが多いのですが、展覧会で実見した方々の報告に期待します。

*1:【追記】

*2:【追記】実は「莫朽・・・」以下があまりよく読めなかったのですが、このような御指摘がありました。

*3:【追記】参照、CiNii 論文 -  日本霊異記下巻序の訓読 : 来迎院本本文の整理による 翻字、断句はやはり「莫朽之号悪種、叵失之号善根」に従うべき。