あしがひの如く萌え騰る

 何か新春らしいネタを一個くらいは、と思っていて、なかなか思いつかなかったので、昨年最後に書いた記事の簡単な補足で春らしさを擬装(?)するという趣向。

どの語も用例文や「補説」とあわせて味読すべきで、一例、「あしかび」(43頁)。ちゃんと「(中世以後「あしがひ」とも)」と指摘するのがミソで、このことに触れる古語辞典はそんなに多くないと思います。しかも、「あしがひ」とよむ実例も忘れずに挙げています。

http://d.hatena.ne.jp/consigliere/20121230/1356866703

 読み返してみると、余りにも言葉足らずで何のことか伝わりにくい文章ですね。
 以下が『古語大鑑』の当該箇所。

 葦の芽を意味する『古事記』の「葦牙」を「あしかび」と読むのは、用例文にある通り、その直後の神名「うましあしかびひこぢのかみ」によるもので、それはそれでいいのだと思います。
 しかし、『古語大鑑』も指摘している通り(赤線枠内)平安時代以降これを「あしがひ」と読むことがあったらしい。というよりも、残された資料から見ると、むしろ「あしがひ」(あしかひ)の方が多いような印象を持ちます。そのことに言及して、実例も挙げているので優れた古語辞典だと申し上げたわけです。
 『古語大鑑』が挙げている例以外の「あしがひ」(あしかひ)を二例だけ。

(『信西日本紀鈔とその研究』103頁)信西日本紀鈔』上巻の目次の部分ですが「葦貝」とあるので「あしがひ」(あしかひ)と読んでいたことは明らか。この写本自体は室町時代の書写ですが、これが十二世紀の信西の表記を伝えるものかどうか。

日本古典文学大系『古今著聞集』口絵)傍訓「アシカイ」(アシガイ)。なお、神武天皇のお父さんである彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊の名前の最後「不合」を「アハセズ」とよんでいることにも注目。
 そんなこんなで「あしがひ」は宣長が出てくるまでは強固に残っていたと思います。

寛永版本『古事記』やはり「アシガヒ」 http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko30/bunko30_e0119/bunko30_e0119_0001/bunko30_e0119_0001_p0006.jpg
 「かび」は「黴」を連想させて(というよりも語源を同じくするのかも)現代の語感からすると、あまり美しくない印象を与えるので、あしがひ(「芽吹葦」)の如く万事豊けく萌え騰れる春になりにけるかもということで、新年の挨拶といたします。