「その時歴史が動いた」――ひらがな革命〜国風文化を生んだ古今和歌集〜

 まずは、軽いつっこみを。『古今集』の奏覧に際して、再現ドラマでは『古今集』が冊子本になっていましたが、これは当然、誤り。巻子本(巻物)二十巻が献上されたはずです。以降、これが先例となり、天皇に献上する勅撰和歌集の正本(「奏覧本」)は巻子本の形態をとるのが原則となります。


 それにしても、「国風文化」や「中国文化からの独立」というのを強調し過ぎると、本質を見誤ることになりますね。33分頃に「仮名序」が紹介されましたが、その仮名序は、表現はともかく、内容は大陸の文学理論を無理矢理移植すること――後世の真面目な歌学者を悩ませ続けた「六義」などというのは、その顕著な例ですね――で成り立っているのですから。
 仮名序について「表現はともかく」と言いましたが、思うに、『古今集』で注目すべきは、仮名で書かれた和歌の勅撰集であるということ以上に、漢文ではなくて仮名で書かれた序文が巻頭に置かれたという点でしょう。これこそが、極めて画期的で、野心的な試みであったはずです。おそらく史上初だったでしょう。仮名序の作者だとされる紀貫之の苦労は、秀歌を選ぶことよりも、この仮名序の執筆にあったのではないでしょうか。書物の序文として、あるまとまった量の公的な文章を和文で書くという、試行錯誤を経ていない、蓄積のない試みだったからこそ、全体として読みづらい文章になっていると思うのです。いろいろな現代語訳や注釈を見てきましたが、よく理解できない箇所が多い、というのが正直な感想。