上野洋三編『影印 奥の細道 付参考図集』

影印奥の細道 (1980年)

影印奥の細道 (1980年)

 私は『奥の細道』はあまり真剣に読んだことないので、どの注釈書・解説書が良いとか、よくわからないのですが・・・それでも、この上野氏の評釈には啓発されることが多いと感じました。
 どの箇所でもいいのですが、一例、「雲の峰いくつ崩れて月の山」(出羽三山の章)の句について、

第二句は、「雲の峯」と「月の山」との文字の遊びが、基本に先ずあるが、その文字面を対照する遊びは、各々の片方が一語としてのまとまった意味と内容を保持した途端に、他方が無機質に転落する不思議なバランスの上にある。すなわち「雲の峰」が季語としての内実を要求して文学的ふくらみを持った瞬間に、「月の山」は単なる山名としてのガツサンの山影をしか示し得ず、逆に「月の山」が月影に照らし出されて輝く山の美しさを意味するとき、「雲の峰」はほとんど単なる雲になりさがってしまって、夏の季語たり得るかどうかも危なくなってしまうのである。一句は、この二つの力の永遠に決着をつけられない往復運動に支えられているので、あたかも無限に湧きあがる雲と、無限に出現する月との、循環するフィルムを見るような、神秘な錯覚を生ずる。その無限の運動の動的なバランスを「幾つ崩て」の中七が表現するのである。

真似できない(してはいけない)職人芸といった雰囲気。