日本古代木簡字典
奈良時代(平城宮跡出土)木簡の字
『平城宮木簡』(一)〜(六)所収の木簡に使用された文字約940種、約5000字を収録し、部首別に配列、巻末には音訓索引。B6判のハンディな字典です。金石文に関しては北川博邦編『日本上代金石文字典』、正倉院文書に見られる異体字については国士舘大学文学部考古学研究室・大川清『正倉院文書異体字集成』等の字引があって、古代日本における実際の文字使いの様相を簡便に見渡せる環境が、少しづつとはいえ整ってきました。
最後に「熟語」(年号・地名・人名・その他)を収録しているのも一見識ではないかと。「万呂」や「戸主」「戸口」が合わせ字(一字)のように書かれていたことがわかります。
帯に記された、東野治之氏の「推薦のことば」を転載しておきましょう。
「学」が正字ばかり見えるかと思えば、「祢」のように略体でしか登場しない字がある。「正」はもっぱら行書で書かれ、「嗣」と「副」が異体字ではそっくりなど、眺めていて飽きない。
本書は古代史といわず、いやしくも漢字に関心を持つ人には必携の書である。
表紙の文字・解答編
表紙に12個の漢字がありますが、クイズだと思ってみなさまも何の字か当ててみてください。右端の行の一番上と一番下は、「推薦のことば」で言及されている「正」と「学」です。一番難しいのは、おそらく三字目で、これは日本史の知識も必要となります。
右端:「正」
「従」 (つくりの部分は「足」の字にも似ていますね)
「贄」 (天皇に献上する食べ物のこと。長屋王邸宅跡から「大贄」と書かれた木簡が出土して話題になりました)
「斗」
「学」
二行目:「所」
三行目:「部」 (「部」を省略して「マ」のように書く字体は、島根県岡田山古墳から出土した6世紀頃の大刀の銘文にも見られ、長い伝統があります)
四行目:「御」
「升」 (「斗」といい「升」といい、付札木簡などに頻出するので見慣れた字体です)
「解」 (「解」(げ)というのは律令制下の公文書の書式名なので、正倉院文書でも非常に多く見かける字です。というか、見かけるのは当該例のような「角」+「羊」あるいは「角」+「年」といった字体ばかりですね)
「嶋」 (「山」がだいぶ左上のほうに片寄っていますね。「嶌」のような字体もすでに当時現われています)
「参」 (はやくも奈良時代の段階で公文書には「壱」「弐」「参」などの大字がもちいられました)