大岩正仲氏『文語文法概要』を(これから)読む

 不勉強というのは恐ろしいもので、つい先日、本書のことを教わりました(汗

文語文法概要 (1959年)

文語文法概要 (1959年)

 大岩氏は方言研究者のイメージが強いですし、厄介な古語の一つ「ずは」の用法についての研究では必ず名前の挙がる研究者なのですが、このような文法書の単著があったとは。
 本書の最大の特徴は、最も多くの例文を古今集から採用している点です。

文語文法の精髄は、平安時代の歌文のうち特に古今集において著しく発揮されている。古今集に親しむことが、文語文法を体得する第一の道であろうとさえ思う。本書は、それゆえ最も多く古今集の和歌から用例を採り、補うに他の古典からの用例をもってした。

(「はしがき」)
 「古今集に親しむことが、文語文法を体得する第一の道」とは、なんという大胆な提言!たとえば上代語の文法書を書けば(cf.『奈良朝文法史』)万葉集の用例が自然と最も多くなる、というのとは本質的に異なるスタンスを見てとることができます。このような概説書に、かような強い主張があるのは嬉しいことです。
 散文作品の場合、どうしてもある程度は全体の文脈から切り離して部分的にとりあげざるを得なくなるのに対して、歌の場合は三十一字で完結するわけで、作品の全体を提示して説明できるというのが歌を採用する最大のメリットでしょうね。もちろん、歌には特殊な語法・用語があって、歌のみで古典文法を説明するのは不十分ですから、本書はほかにも多くの例を源氏物語その他から補っています。というよりも、用例数は類書のなかでも非常に多いほうではないでしょうか。
 以上の理由で古今集の歌は500首以上(つまり約半分)も用例として採られており*1、そして、そのほとんど全てに注釈として現代語訳が付されています。つまり、古今集の注釈書として逸することができないという点でも重要ではないかと。
 ただ、まだパラパラとしか見ていませんが、その分類でいいのかなぁと思う例もちらほらと(58頁等)。

*1:索引によると、特に冒頭の6巻(春〜冬の季節の歌)はその2/3がとりあげらています