読『史記』
モイモイさん宛ての私信みたいなものですが、ほかの読者のみなさまにも資するところがあると思いますので、こちらにあえて載せておきます。
劉邦と項羽、つまり「漢楚」の争いを描いているということで、『史記』は大陸王朝正史のなかでも『三国志』に次いで親しまれていると思いますが、どのような内容なのかを知りたい、日本語訳で読みたいという当座の要望を満たすものとしては、小竹兄弟によるいわゆる「小竹史記」、
と、
あたりが良いと思います。古本屋に結構出回っているので、苦労せずに入手できるのもポイント。抄訳ですが、岩波文庫本も、もちろん有益です。
ただし、いずれも原文がないので、厳密な意味ではテキストとして利用できません。そうなると、中華書局点校本正史のシリーズに収められた『史記』(中華書局)、あるいは原文・読み下し・日本語訳・注が完備されている吉田賢抗・水沢利忠『史記』(新釈漢文大系、明治書院)などにあたるのが常道ですが、一歩先に進んで、自分なりに『史記』を深く掘り下げていきたいという知識欲にかられたら、いっそのこと、
を図書館等で利用するのがいいでしょう*2。ただ、先日、勝村哲也「目録学」(『アジア歴史研究入門 第三巻』 同朋舎)を読んでいたら、
こうした佚文*3を全部集めて『史記』の解釈に役立てようとしたのが、滝川亀太郎の『史記会注考証』であって、研究者にとってはたいへん便利なものなのであるが、顧頡剛など中国の学者の評によると、滝川本は杜撰だと言われるので、これまた注意を要する。施之勉撰『史記会注考証訂補』(台北 華岡出版有限公司、1976年)、厳一萍撰『史記会注考証×*4訂』(ただし五帝本紀のみである。台北 芸文印書館、1976年)を参照すべきである。 (6頁)
とあるので、大変なものですね。実際は上記滝川・水沢の二書で十分間に合っているのですが。
ちなみに、この勝村氏論文は大いに面白かったので一読をオススメします。
当初私が意図したのは、私の経験に照らして、できるだけ研究の実際に役立つ紹介を行ないたいということであった。だから目録学の概説を試みようという考えは毛頭なかった。 (46頁)
というご自身のまとめにあるように、ある程度の予備知識を必要としますが、きわめて実践的で、“裏話”的な指摘・注意喚起に満ち溢れています。