地下から出土した文字

asin:4634541505
 文字が記された出土史料(木簡・墨書土器・漆書文書等)についての入門書。予備知識は不要、ルビや頭注も懇切でサクサク読めます。特に、70〜81頁あたりは研究者の息づかいのようなものを直に感じられる箇所で必見、第四章「広がる研究対象――列島の端へ、国土の外へ」も重要な問題提起だと感じました。
 それはそうと、本書も、ほかにたくさんある概説書と同様に、古代の話題が中心となっています。たしかに、

古代の社会を明らかにするうえでは、出土文字資料のもつ意味合いは、それ以降の時代よりも大きい。

(2頁)のは、その通りでしょう。
 しかし、中世〜現代の出土資料を中心的に扱うという新機軸をうちだした書がそろそろ出てもいいのではないか、という提言をしたい。例えば、2頁で写真とともに紹介されている、「東京の新橋停車場跡の発掘調査」で発見されたという「明治初年の切符」なんて、大変興味をそそられるじゃないですか。
 あるいは、47〜49、66〜67頁では呪文やまじない・祈祷の文言を書いたようにみえる資料をごく簡単に紹介していますが、仄聞するところによると、こういった類の物はむしろ中世になると出土例が増加するそうです*1。「急々如律令」と書かれた木簡とか。普通の文献資料からはなかなか窺い知れない、生々しい民衆の声。古代に限定せずに、そういったものを通時的に見渡せば、民間信仰史的には面白いのでは?奥野義雄氏の著作などが内容的に近いかもしれませんが、まだ読んでいません・・・。
 本の紹介から一歩はずれた独り言でした。
 どうでもいいことですが、8頁の「長屋王」の頭注で「右大臣にのぼるが」は「左大臣」の誤りです。

*1:和田萃「呪符木簡の系譜」(『日本古代の儀礼と祭祀・信仰 中』)