牡丹に蝶(4) - Cask Strength の補足です。この「花札」シリーズは思い入れがあるので、反応があると嬉しいですね。蓮さん、ありがとうございました。
万里集九の詩文集『梅花無尽蔵』に「猫児双蝶図」という詩が収められており、
使牡丹無乱後花
母猫不睡午陰斜
蝶衣薄褁誰春夢
容易双飛莫触牙
第一句の「乱」は応仁の乱のこと。「蝶衣」は宋詩でチラホラ見かけるようになりますが、蝶の羽を意味する詩語です。母猫は昼寝をしていない(目を覚ましている)ので、二羽の蝶は気をつけなさい、といった詩。
市木武雄氏の『梅花無尽蔵注釈 第二巻』(続群書類従完成会)の「余説」には、
万里が、この詩の起・承句で「猫」を詠ずるのに、「牡丹」と「睡ること」を取扱ったのは、その背景に、当時の絵の図柄に「牡丹と睡り猫」が有ったからであろう。有名な、日光東照宮、陽明門に、左甚五郎作と云われる「睡り猫」も牡丹の中に睡っている。この源は恐らく、水月斎指月録(明の瞿汝稷の著。禅僧の語録等を記した書)にある、「牡丹花下睡猫児」に基づくものであろう。
(241頁)と。
『水月斎指月録』という書は不勉強で存じませんでしたが、おそらく「牡丹花下睡猫児」は、もとは『続伝灯録』(巻三十二)からとったものでしょう。それがさらに『禅林句集』(『句双紙』)の類にとられたのですね。
万里集九はその『天下白』が『四河入海』に収められていて、学識の高さは知っていましたが、このたび『梅花無尽蔵』をパラパラめくって初めてその作品に触れたところ、ぱっと見た印象では、なんとも読みづらいなぁということでした。