『神話の力』

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

モイヤーズ すると、もしかしたら、自分では気がつかなくても、われわれみんなのなかに英雄が潜んでいるかもしれない?

(文庫版275頁)
 『神話の力』の文庫版が出ていたことに気づかなかったとは何たる不覚・・・昨夜気付いて、今日さっそく買いました(文庫化にあたって索引がついていたらなお良かったですね)。
 高校時代の思い出の本で、線を引き引き原書を何度も読んだものです。その原書は引っ越しのどさくさに紛失してしまいましたがorz

 左が愛蔵の旧版、右がこのたびの文庫版。
 本書と、キャンベル氏の別の名著『千の顔を持つ英雄』、エリアーデ永遠回帰の神話』、ユング『元型論』という青春時代の読書体験がわたしに与えた影響はあまりにも大きい。大学に入ってからは、これらの著作を自らの意思で遠ざけてしまったのですが、それでも今なお大きなうねりとなって魂を激しく揺さぶることがあります。

キャンベル 人々はよく、われわれみんなが探し求めているのは生きることの意味だ、と言いますね。でも、ほんとうに求めているのはそれではないでしょう。人間がほんとうに求めているのは〈いま生きているという経験〉だと私は思います。純粋に物理的な次元における生命経験が自己の最も内面的な存在ないし実体に共鳴をもたらすことによって、生きている無上の喜びを実感する。それを求めているのです。結局そこがいちばん肝心なところです。私たち自身のうちにそういう喜びを見いだす助けとしてこれらのかぎがあるのです。
モイヤーズ 神話はなにかを解くかぎだとおっしゃる?
キャンベル 神話は、人間生活の精神的な可能性を探るかぎです。

(文庫版43頁)
 本書で論じられている比較神話学的考察に関しては、総論的にも、各論的にも多くの異論がありうるでしょう。テレビ収録のための対談ですから、聴衆を多分に意識していることもあります(自己啓発的な言い回しに首をかしげる人もいるかもしれません)。しかし、そういった批判は本書には実は当たらないのであって、神話を読むというのは倫理の問題であるというキャンベル氏の一番大事なメッセージはしっかり受け止める必要があるのではないでしょうか。『神話の』という書名を味わいたい。

モイヤーズ 私はどうやって私の内なる龍を倒せばいいのでしょう。私たちが各自しなければならない旅とは、先生がおっしゃる「魂の高い冒険」とは、どういうものでしょう。
キャンベル 私が一般論として学生たちに言うのは、「自分の至福を追求しなさい」ということです。自分にとっての無上の喜びを見つけ、恐れずそれについて行くことです。
(中略)
モイヤーズ そう考えてくると、私たちはプロメテウスやイエスのような英雄と違って、世界を救う旅路ではなく、自分を救う旅に出かけるんですね。
キャンベル しかし、そうすることであなたは世界を救うことになります。

(文庫版314〜315頁)