項楚氏『敦煌語言文学論集』の注意点――付・『敦煌文学叢考』との重複論文

 先日紹介した『当代敦煌学者自選集 項楚敦煌語言文学論集』(項楚『敦煌語言文学論集』・趙和平『敦煌書儀研究』(当代敦煌学者自選集)所収論文 - Cask Strength)について、一つ注意すべきことに気づいたので記事を書かなきゃと思っていたのに、コロっと忘れてしまいました。ひと月も経ってしまい、申し訳ありません。

「《王梵志詩校輯》匡補」

 それは「《王梵志詩校輯》匡補」(378〜418頁)のことです。実は、項楚氏には同名の論文が二本あります。『中華文史論叢』1985年第1輯に収録されているものと、『敦煌研究』1985年第2期のものでして、本書に再録されたのは『中華文史論叢』のほうだけなのです。
 題名が同じであることから推測できるように、二本とも同じスタイルで、張錫厚氏『王梵志詩校輯』の本文に対して疑義をただし、訂正の試案を出すという体裁のものでして、『敦煌研究』のほうはなぜ本書に採用されなかったのか、理由はわかりません。注意を促す次第です。

敦煌文学叢考』

 この欠を補うことができるのが、1991年に出版された項楚氏の論文集『敦煌文学叢考』(上海古籍出版社)です。後述するように、本書に収められた論文の大部分が『敦煌語言文学論集』に再録されることになるのですが、問題の「《王梵志詩校輯》匡補」(462〜611頁)も収められています。
 ただ、『敦煌文学叢考』所収「《王梵志詩校輯》匡補」も厄介で、上述した二つの論文を一つに再編集してしまっているのです。王梵志集の詩の配列順に従って再編集しているので利用の便はあるのですが、こちらも十分にお気をつけください。

(左が『敦煌語言文学論集』、右が『敦煌文学叢考』)
 『敦煌文学叢考』の24篇の論文のうち、19篇が『敦煌語言文学論集』にも採られました。『敦煌語言文学論集』に未収録の5篇は、

  • 敦煌本句道興《捜神記》本事考
  • 《廬山遠公話》補校
  • 《破魔変文》補校
  • 《降魔変文》補校
  • 維摩詰経講経文》補校



これら(と「《王梵志詩校輯》匡補」)については『敦煌文学叢考』を見る必要があるというだけでなく、なにしろ本書は縦組繁体字なので、私にとってはすごく読みやすい。『敦煌語言文学論集』に収録されているものであっても、今後も『敦煌文学叢考』を利用すると思いますけど。