ちくま学芸文庫版『平安朝の生活と文学』の「編集部注」
多くの方々にとっては角川文庫版で慣れ親しんでいるはずの本書が装いを新たに再刊。若い学徒にとって喜ばしいことですね。
- 作者: 池田亀鑑
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/01/01
- メディア: 文庫
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本書の意義については巻末の解説にある通りなので重説しませんが(そういえば解説327〜328頁によると「本文を検討してみると、どうやら、主要作品でも何か一つの本をもとにしているのではないらしいことがわかってきた・・・どうもそれぞれの箇所で引用するにふさわしい伝本によっているらしく思われ」云々←要チェック)、編集方針として、
明らかな誤植、誤脱などはこれを訂し、読者の誤解を招きかねない箇所には(* )で編集部注を入れたが、表記の不統一などは底本の通りとした。
とあるのが注意されます。もう御承知の通り、私はこういうのを探すのが好きでしてw
結構あるのかなと思いきや、ざっと通覧した限りでは3箇所に付されたのみでした。見落とし御容赦。
(62頁)
また『紫式部日記』に「この式部丞といふ人のわらはにて、史記といふ書よみ侍りし時、聞きならひつつ、かの人はおそうよみとり、忘るる所をも、あやしきまでぞさとく侍りしかば、文に心入れたる親は「口をしう、をのこにて持たらぬこそ幸ひなかりけれ」とぞ常になげかれ侍りし」(*「史記といふ」は一部の伝本にある表現)とあります。式部丞とは、紫式部の兄にあたる人で(*現在は、弟とするのが通説)・・・
(219〜220頁)
最初の「一条天皇の御乳母」は、このままでも少し問題があって、元ネタは『袋草紙』だと思うのですが、「一条院御乳母之子也」とあって(これを引く『中古歌仙三十六人伝』も同じ)「御乳母」ではない。いずれにせよ伝説に過ぎない話ではあるものの、「御乳母」とする「中世の伝承」もどこかにあるのかな。真剣に探していなくてすいません。
「「史記といふ」は一部の伝本にある表現」は、壷井義知『紫式部日記傍註』には見られる文ですが、校本を見ていないのでこれも他の本にあるのかどうかわかりません(今日は割といい加減だ)。「*現在は、弟とするのが通説」というのは、あ、もう「通説」なのか、というのが発見でした。