「奇特」を「キドク」とよむこと

 少年ジャンプで浸透? 「奇特な人=変なやつ」という間違い|ライフコラム|NIKKEI STYLE
 元記事はなかなか興味深かったです。
 さて、これを機に「奇特」を実際に辞書で引いてみた方も多かったでしょう。多くの国語辞典は「きとく」という読みで立項しているはずですが、たいてい「(キドクとも)」のような注記が入っているはずです。「きどく」の項目を立てている辞典も多い。しかし、なぜ両様の読みがあるのかという点については説明されていないことがほとんどでしょうから、疑問に感じた読者も少なくなかったのでは。
 「特」は、漢音では「トク」、呉音では「ドク」でして、要するに「奇特」(キドク)は仏教語でもあるんですね。Ascarya や Abdhuta といった梵語の漢訳として定着している語です(※えらそーに書きましたが、私は梵語の知識が皆無なので、この受け売りの情報が不正確でしたら、ごめんなさい)。
 ここで、せっかくなので、私が先日購入したばかりの『范祥雍古籍整理匯刊 大唐西域記匯校』(上海古席出版社 2011年)に活躍してもらいましょう。使わないと本棚のこやしになるだけだからね!
 インドに向かって出発した玄奘が屈支国に到着し、いろいろと仏教寺院等に立ち寄るのですが、そのうちの一つが「阿奢理貳伽藍」でした。この「阿奢理貳」は上記 Ascarya を漢字の音を借りて表記したものです。

会場西北、渡河到阿奢理貳伽藍、【唐言奇特。】庭宇顕敞、仏像工飾。

(『大唐西域記匯校』19頁)【 】内は、「阿奢理貳」は唐では「奇特」というのだと解説する注。
 というわけで、我が古典作品には「奇特」を「キドク」とよむ例が多いように思えます。

(『平家物語』巻一「願立」。クリックで画像拡大。 http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko30/bunko30_e0137/index.html