『宮本常一の本棚』

 日本民俗学界の巨人、宮本常一がものした主な書評を集成した本です。

宮本常一の本棚

宮本常一の本棚

宮本先生は読書家であった。

(「あとがき」423頁)
 学者なのだから「読書家」なのは当たり前だろう、などと暴言を放つ人がもしいれば、その人の首根っこをつかまえて詰問したい。おまえ、宮本常一がどれほどの距離を歩いたのか知っているのか、どれほどの著述を残したのか知っているのか、と。
 研究活動というのはマルチタスキングに向かない分野でして、歩いている時は読書もできず、文章も書けない(できる、と主張する人はいますが)。文章を書いている時は読書もできず、歩くこともできない(できる、と主張する人はいますが)。そして、読書をしている時は歩くこともできず、文章を書くこともできない(できる、と主張する人はいますが)。
 それにもかかわらず一人の人間がこれだけの量のフィールドワークと執筆と読書をこなしたというのは、驚異というほかありません。
 それだけの超人なだけに、評言は滋味に富みます。アームチェア学者にはない凄み、と言ってもいいかもしれません。たとえば知里真志保の不朽の名著『分類アイヌ語辞典(植物篇)』の評、

ただ植物について和名学名を一々丁寧にあげて、それについて各地アイヌ語を記しておられるのだが、学名のそれとアイヌ語の植物が一つのものである事を知里氏はどうしてたしかめられたであろうか……という事について私は知りたい。植物学者でない私たちが植物方言を集める時も無数のあやまりを犯すのはこの事であった。私が植物方言の調査を断念したのはこの事からであった。方言学者の植物方言を信じ得なくなったのもそれからであった。しかし知里氏は植物学にも実にくわしい人のようである。よくこの知識を得られたものだと、自らを省みて思うのだが、その種あかしが序文にほしかった。

(50頁)
 さて、本書で紹介されている論文・書籍の一部は近デジ等で公開されているので、確認できたものについて、リンクを貼っておきますね。まあ、半数は柳田国男の著作ですけど。河村只雄「粟国渡名喜紀行」は南方文化の探究 - 国立国会図書館デジタルコレクションに収録されているとのことですが(26頁)、ぱっと見た様子ではそれらしきものがありません。
 禁忌習俗語彙 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 服装習俗語彙 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 海南小記 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 荘園志料. 下卷 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 柳田国男 遠野物語
 長崎より江戸まで - 国立国会図書館デジタルコレクション
 死線を越えて. 上卷 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 アチックミユーゼアム彙報. 第21 - 国立国会図書館デジタルコレクション
 ところで、本書を眺めていると、「掲載誌・掲載日不明」(『山国の神と人』書評。128〜129頁、等)といったものが散見されます。

・・・これが全てではない。寄稿した事はわかっているが、収載書誌が宮本文庫にも、手元にもなく、本書に収録できなかったものがたくさんあるし、それ以外にも探しきれていないものが、まだまだ残っているはずである。お気づきの方にご教示いただければ幸いである。

(「あとがき」425頁)
 きっと多いはず。