これであなたも唐王朝の役人になれる――『唐朝国家公務員試験 科挙対策 律令』



 欲しかった本を学友が買ってきてくれました!多謝。

 詳細に検討したわけではないのですが、90頁という分量で手際よくコンパクトにまとまっているように感じます(なお、書名は「律令」ですが、主に「律」を取り扱っています)。
 体裁は参考書そのもので、練習問題([設問])と解答がついているのが楽しい。一例、

皇太子に対して薬を調合するのに処方を誤った。いかなる罪か?

医者は職12に皇帝の薬を調合するのに誤れば絞とある。また、名51に皇太子に対する罪は皇帝から1等を減ずるとあるため、絞から1等を減じ流3000里とする。
監視役の官司は医者から1等を減ずるため、流2500里とする。
なお、故意に処方を誤れば謀反となり、着手しているため結果の如何に関わらず斬。

(53頁。「職」は職制律、「名」は名例律、その後の数字は『唐律疏議』における条文番号)
 以前、司法試験のための参考書を法学部の友人から見せてもらったことがあり、そのケーススタディを読むにつけ、頭が悪いオレには絶対に無理だと観念したのですが、千何百年前に生まれていても明法科(明法道)という進路はオレにはなかったでしょうなぁ・・・w 律令だけでなく、格と式の知識をもあわせて縦横無尽に駆使して前近代の法制史を明らかにしようとしている方々はすごい。
 律令の知識が少しあると文学作品を読むのがおもしろくなる(というよりも、必須のケースも多い)。たとえば、『日本霊異記』中巻第三は題名が「悪逆子愛妻将殺母謀現報被悪死縁」。この「悪逆」は単なる「悪い、ひどい」ではなくて、防人が自分の母を殺そうとする話なので、これはいわゆる「八虐」(唐律では「十悪」)の一つである「悪逆」(年長の親族を暴行・殺害するなどの罪)を指します。重罪中の重罪です。
 そもそもこの防人の母がなぜ子と一緒に任地にいるかというと、防人は家人や奴婢、牛馬を任地に連れて行くことができる、という軍防令の規定を利用しているわけです。このような令の細則を把握している(そして、実際に母を連れていくことができるような経済力がある)のは下層の庶民ではありえず、この物語の主人公は豪族階級の子弟という設定だという指摘(寺川真知夫氏「『日本霊異記』中巻三縁の形成」」)はもっともなことだと思われます。
 さて、ここでオレからも練習問題です。『万葉集』巻15・3754の上の句に「過所なしに 関飛び越ゆる ほととぎす」とある。このほととぎすは、いかなる罪になるか、唐と日本双方について答えよ。上述の通り、制度と判例の知識に乏しいので、解答は載せない(微妙な判断となる可能性もある)。 ←言うまでもないですが、あくまでもネタですよ、ネタ!