「黄葉の妖精」

三七〇四 もみち葉の 散らふ山辺ゆ 漕ぐ船の にほひにめでて 出でて来にけり
三七〇五 竹敷の 玉藻なびかし 漕ぎ出なむ 君がみ船を いつとか待たむ
  右の二首、対馬の娘子、名を玉槻といふ

三七〇四と、三七〇五は、宴に侍した土地の遊行女婦玉槻の歌である。一行を讃美し、歓迎する歌と別れを惜しみ再会の日を待つ歌とを、同時に詠んでいる。三七〇四の作者は、寄港した都人たちの宮風(みやぶり)に吸い寄せられるように海浜に憧れ出て来た黄葉の妖精のような趣がある。

(『萬葉集全歌講義 第8巻』181〜182頁)

萬葉集全歌講義〈8〉巻第十五・巻第十六

萬葉集全歌講義〈8〉巻第十五・巻第十六

 注釈書でこういう大胆なことはなかなか書けない。「黄葉の妖精」、どのようなものを想像されていたのでしょう。みなさまはどうでしょう。