購入品

たまにはマジメなことも書けとの常連モイモイさんのコメント。取り寄せをお願いしていた中国書籍が到着したことですし、久しぶりに「読書感想文」でも。

羅韜選註・劉斯翰審訂『張九齢詩文選』(広東人民出版社 1994年)

張九齢といえば、初唐を代表する詩人の一人で、『唐詩選』に収められた五言絶句「照鏡見白髪」、

宿昔青雲志   宿昔 青雲の志
蹉跎白髪年   蹉跎たり 白髪の年
誰知明鏡裏   誰か知らん 明鏡の裏
形影自相憐   形影 自ずから相憐れまんとは

で知られていますが、天平年間の遣唐使に対して「勅日本国王主明楽美御徳」(「日本国王『スメラミコト』に勅す」)で始まる有名な国書を起草したことでも歴史に名を残す(残念ながら、本書では扱われていません)。この本は、その張九齢の詩文についてのおそらく唯一の選注書。
というわけで期待したのですが、横組・簡体字・・・は、もう仕方ないか・・・
それはともかく、肝心な注釈については、有名な詩にしか目を通していませんが、いささか失望。
「感遇」詩からは七首選出。「感遇」と題する詩群は基本的に風刺詩なのですが、どんな寓意が隠されているのかという具体的な説明の多くが欠落。これじゃ鑑賞の楽しみも半減です。例えば「孤鴻」は詩人本人で、「翠鳥」は当時権勢を誇った人だ、とは述べていますが、では、詩の最後に出てくる「弋者」というのは?ほかの「感遇」詩でも、例えば「丹橘」は詩人本人で、「嘉客」は皇帝のこと、ぐらい言ってくれてもいいでしょう。
「奉和聖製送尚書燕国公赴朔方」詩の「四牡何時入」(四牡 何れの時にか入らん)に対して『毛詩』「小雅・四牡」を引くのは不要で、その前の「山甫帰応疾」(山甫 帰ること応に疾かなるべし)とあわせて『毛詩』「大雅・烝民」に基づくと指摘すれば済みます。
かと思えば、「酬趙二侍御使西軍贈両省旧僚之作」詩の「忽枉兼金訊」(忽ちに兼金の訊を枉ぐ)について、『孟子』を引いて「兼金」の説明(質の良い金、の意)をするだけでは不足で、ここは陸機の「贈馮文熊」詩の一句「良訊代兼金」(良訊 兼金に代ゆ)を引かなくてはいけない。
上でも挙げた「照鏡見白髪」を取り上げなかったのは、詩意が明らかだからか。それとも、この作品を張九齢の自作とは認めなかったか。一言釈明しても良かったのでは。
不備ばかりあげつらいましたが、散文作品の注釈は現代に至るまで皆無に近いので、その部分は役に立ちそうです。