『稼軒詞編年箋注』

増訂本が出たので、値崩れしましたね。

訒広銘『稼軒詞編年箋注』(上海古籍出版社 1978年)

辛棄疾(1140〜1207)、稼軒(居士)は号。南宋が金に圧迫されていた時代に生き、政治的にはいわゆるタカ派でしたが、その主張はなかなか受け入れられず、不遇のままこの世を去る。20世紀に入り、異民族に抵抗した「愛国詩人」として中共に評価され、その卑しいプロパガンダに利用されてしまったという点でも、不運な詩人でした。

   「醜奴児」
少年不識愁滋味
愛上層楼
愛上層楼
為賦新詞強説愁


而今識尽愁滋味
欲説還休
欲説還休
却道天涼好箇秋

「若い頃は『愁い』の何たるかを知らなかったのに
高いところに登っては
高いところに登っては
無理矢理『愁い』について歌をつくったけれど


『愁い』の何たるかを知り尽くした今
それについて歌おうとしては、歌うのをやめ
歌おうとしては、歌うのをやめ
かわりに『爽やかな良い秋・・・』なんて歌うのよ」

   「西江月 遣興」
酔裏且貪歓笑
要愁那得工夫
近来始覚古人書
信着全無是処


昨夜松辺酔倒
問松我酔何如
只疑松動要来扶
以手推松曰去

「酔っぱらうことで一時の歓びをむさぼる
愁えようとしたって、そんな暇はないよ
最近ようやくわかったけれど、昔のエライ人が書いた本
あんなのを信じたって何にもならないと


昨晩は松の木の下で酔いつぶれ
松に『オレの酔いっぷりはどうよ』と訊いてみた
すると、松が動いてオレを助け起こそうとしているような気がしたから
手で押しのけて言ってやったよ、『あっちへ行け』と」

   「青玉案 元夕」
東風夜放花千樹
更吹落 星如雨
宝馬雕車香満路
鳳簫声動
玉壷光転
一夜魚龍舞


蛾児雪柳黄金縷
笑語盈盈暗香去
衆裏尋他千百度
驀然迴首
那人却在
燈火闌珊処

「春風が吹く夜に、花のような燈籠千個
風に吹かれる燈籠はまるで星が降るようで
美しい馬 豪華な車 道いっぱいの芳香
笛の音色が響くと
玉でできた燈籠に光がうつり
夜通しの大道芸


髪飾りと金色の糸
笑い声が満ち溢れ、どこからか香りが漂っては消える
人ごみのなか、何度も何度も探し回った
ふと振り返ると
思いがけずも、あの人はいた
消えそうな薄明かりのともし火のそばに」