『現代語から古語を引く辞典』

現代語から古語を引く辞典

現代語から古語を引く辞典

 「座談会 万葉集研究の現在」(『リポート笠間』46号) - Cask Strength で紹介した辞書の増補改題版です。擬古文で文章を書いたり、一句捻ったりするのに相変わらず役に立つでしょう。
 「訂正すべきは訂正し」(「はじめに」)ということなので、もちろんこの改訂版を買うべきでしょう(付録も充実)。しかし、こういった改訂版が出たときの常道ですが、新旧双方を読み比べて考えてみることをお薦めします。いろいろと勉強にはなるので。
 例えば、「かたち」項、旧版には、

かげ[陰・影・蔭] かた[形・象] さう[相] てい[体] なり[形・態] やう[様] やうす[様子] やうだい[容体・容態]

 それが改訂版では、

かげ[陰・影・蔭] かた[形・象] さう[相] てい[体] なり[形・態] やう[様] やうす[様子] やうだい[様体] ようたい・ようだい[容体・容態]

 「様」の歴史的仮名遣いは「やう」、「容」の歴史的仮名遣いは「よう」ということ。「ようだい」だけではなく「ようたい」と澄んで読む根拠は「容体(ヨウタイ)」(『節用集』易林本)。
 ちなみに、「容体・容態」は「ようてい」ともよめるようです。『大鏡』、

御かたち・ようていは、ただ毘沙門のいき本みたてまつらんやうにおはします。

 もう一例。「くるしめる」項、

せむ[責] たしなむ[困] なやます・なやむ[悩] ひづむ[歪] わづらはす[煩]

 新版では、

せむ[責] たしなむ[困・窘] なやます・なやむ[悩] ひづむ[歪] わづらはす[煩]

 増補された「窘」字は例えば、『古事記崇神記(読み下しますが)、

爾くして、其の逃ぐる軍を追ひ迫めて、久須婆の度に到りし時に、皆迫め窘めらえて、屎出て、褌に懸りき。

と。
 後世、「たしなめる」には注意を与える、叱る、といった転義が生じましたが、「窘」という漢字そのものにはそういった意味はありません。それでも、この表記は広く使われたようですね。『南総里見八犬伝』、

君を窘んとしたれども、御曹司を害し得ずして、那身は反て矢傷を受たり。