小右記註釈 長元四年

小右記註釈―長元四年

小右記註釈―長元四年

 先週は『御堂関白記』を紹介したので、今回は時代的に重なる、藤原実資の日記『小右記』の校注本を。時代的に重なるといっても、本書が扱っている長元四年(1031年)は『御堂関白記』の範囲からは外れます。
 上巻は六月までの注と「《解説》『小右記』長元四年条を読む」(後述)および主要参考文献(詳細で有用)。下巻は七月から十二月の注と、巻末に平安京図などの図表と、付録として「人物」「官職・身分」「場所」それぞれの考証(後述)と索引、という構成。そして、『日本紀略』『左経記』に見られる対応記事も掲げているのが便利ですね。

平安時代基礎知識として(1)

 一年分の貴族の日記はピンポイント過ぎて自分には関係ないや・・・と思う方も大勢いらっしゃると思いますが、そういう方でも上巻の「解説」は必見です。「解説」の部分だけで計242ページ。四つの大項目「藤原実資」「宮廷年中行事」「重要な出来事」「社会と生活」に分類されるうち、「宮廷年中行事」と「社会と生活」は平安時代基礎知識の一般的解説記事として有益です。「宮廷年中行事」には、

「社会と生活」には、

  • 対外関係
  • 陣定
  • 官人の出仕と欠勤
  • 着座
  • 所充
  • 喧嘩と窃盗
  • 月食
  • 病気と治療
  • 信仰と禁忌

 馬に関心のある方は、「重要な出来事」の「摂関賀茂詣と競馬奉納」「十列奉納」も御覧になるとよろしいかと。

平安時代基礎知識として(2)

 下巻の付録「人物考証」「官職・身分考証」「場所考証」も便利なので、ここだけコピーして持ち歩いても良いくらいです。平安時代の人名事典としては、槇野廣造氏の『平安人名辞典 長保二年』(長保二年は1000年)、『平安人名辞典 康平三年』(上・下)(康平三年は1060年)が基本となるのですが、本書の「人物考証」はその中間を補うものとして貴重です。また、平安宮・平安京の各所については角田文衞総監修『平安京提要』が標準とはいえ、やはり大き過ぎます。「場所考証」はコンパクトで使い勝手が良い。

蛇足

訓読ですが。

雨露(あら)はるるの時、已に衙政無きの由 雨が降った時には、全く外記政ができない。「雨露」は「うろ」とも。(以下略)

(上巻、220頁)「雨あらわるる」という言い方あるのですか。