瑞龍遺跡出土の「国字刻んだ土器」の文様

 【茨城新聞】国字刻んだ土器出土 常陸太田・瑞龍遺跡

県教育財団は19日、常陸太田市瑞龍町の瑞龍遺跡の発掘調査で、平安時代の竪穴建物跡から、男女の交合を意味する国字「〓(ひるくながひ)」がヘラで刻まれた土器の底面が出土したと発表した。国字は漢字にならって日本で作られた文字。同財団によると、この国字が刻まれた土器の出土は県内で初めて。(中略)
同財団によると「〓(ひるくながひ)」は、12世紀に書かれた藤原忠実の日記にも見られ、研究家の間では隠語として知られている。国字は奈良時代ごろから使われているという。「〓(ひるくながひ)」と刻まれた意味合いや、土器の用途などは不明だが、同財団は「今回見つかった破片は忠実の日記より200年も前のもので、国字の出現を考える上でも貴重な発見。また、この地域に有力者がいたと推測できる」と話す。

http://ibarakinews.jp/news/news.php?f_jun=13928105607429


 これについて何か記事でも書こうと思っていて調べ出した矢先に、一年ほど前に当該の文字が「レファレンス協同データベース」に取り上げられていたことを知りました。
「見」という字とそれを逆にしたような字がくっついて一文字の漢字になっている字がある。この字の読み方、... | レファレンス協同データベース
 というわけで、私はもうやることがなくなってしまったのですが、質問に出てくる『法華三大部難字記』(参照、川瀬一馬『増訂 古辞書の研究』568〜569頁)を検したところ・・・


 文字というよりも、もはや呪符の一種のようです。
 そう考えると、調査にあたった方々は、土器に刻書されたこの文様を文字であると認め、それが『殿暦』永久五年十一月十九日条や古辞書に見られる「ヒルクナカヒ」の先例であるというわけですが、そのように断定するためにはもう少し慎重な考証が必要かもしれません。
 これが何かの文字にせよ符の一種にせよ、どのような意味を担っていたのかは気になりますね。こういったもので思い起こされるのは「我」「念」「君」の三字を合わせたようなかたちの文様が書かれた墨書土器です。

「我念君、君念我」の組み合わせ墨書文字 - なぶんけんブログ より。
 明らかに何かしらの呪的効果を狙っている字ですが、果たして何でしょうか。相思相愛を願ったもの?常識的にはそのように思われます。
 しかし、上記サイトにも書かれているように、中世以降では、これは「夫婦離別の祭文に使われていた」のです。

(荒井秀規氏「神に捧げられた土器」、『文字と古代日本4 神仏と文字』吉川弘文館、2005年。12頁より)