倭国伝

倭国伝 全訳注 中国正史に描かれた日本 (講談社学術文庫)

倭国伝 全訳注 中国正史に描かれた日本 (講談社学術文庫)

 本書は、学研「中国の古典」シリーズから出ていたものをもとにしていて、原書に付録としてついていた「使琉球録」「使事紀略」「夷語附」が省かれましたが(正史「原文」が省略されなかったのは好判断です)、優れた訳注書が装いを新たに刊行されたのは喜ばしいことです。
 ただ、今回文庫化に際して付された竹田氏の序に、

 中国の正史における日本に関する記録の翻訳としては、たとえば「魏志倭人伝」などを個別に翻訳、刊行した例は二、三あるが、本書のように、「後漢書」から「明史」に及ぶ九種の正史を網羅して扱った例は見られない。また、日本についての記事だけでなく、日中両国と歴史的・文化的に極めて関係の深い朝鮮半島に興亡した国々の記事も収録したことは、本書の読者にとって大変有益であろうと思う。

(6頁)とあるのは、たしかに「「後漢書」から「明史」に及ぶ九種の正史」を扱ったのは本書が随一でそこに不朽の価値がありますが、東夷諸国の伝(もちろん倭・日本伝を含む)を『新唐書』まで扱い(そこには本書『倭国伝』では取り上げられなかった正史も含む)、『通典』の現代語訳も収録した、井上秀雄他訳注『東アジア民族史』1・2に挨拶がないのは少し不公平ではないかという気がしました。読者のみなさまの参考までに。

東アジア民族史 1―正史東夷伝 (東洋文庫 264)

東アジア民族史 1―正史東夷伝 (東洋文庫 264)

東アジア民族史 2―正史東夷伝 (東洋文庫 283)

東アジア民族史 2―正史東夷伝 (東洋文庫 283)

 あと、『新唐書』や『宋史』に見られる我が国の「年代紀」に対する認識について。たとえば「次は、神功天皇開化天皇の曾孫〔の〕女にして、又、之を息長足姫天皇と謂う」(280頁『宋史』日本国)の「神功天皇」に対する注に「仲哀天皇の妃、神功皇后の誤り」とありますが、これは「誤り」と言えるのかどうか。
 同じような問題ですが、「次は天智天皇、次は天武天皇」(281頁)のところの注、「実際には天武の前に天智の子の弘文が立っている」というのは、このままでは少し気になります。