漢文法基礎

 ひさしぶりの枝葉末節レビューです。本を紹介できずにレビューの素案だけたまっていくので、記述の簡素化、複数書籍の紹介というように効率化したほうがいいかもしれませんね。まあ、考えておきます。

漢文法基礎  本当にわかる漢文入門 (講談社学術文庫)

漢文法基礎 本当にわかる漢文入門 (講談社学術文庫)

 受験参考書ではなくて、これから漢文をしっかり読みたいという人のための入門書という性格ですね。第二部「助字編」が本書を中核をなしているのは見ての通りで(第三部「構文編」の「飛んでる構文」と「省エネ型の構文」も大事ですが)、これと小川環樹唐詩概説』の附録「唐詩の助字」をあわせて使えば、だいたいのことは間に合います。
唐詩概説 (岩波文庫)

唐詩概説 (岩波文庫)

 助字のニュアンスというのはなかなか把握しづらい。わたしもよくわからないことだらけで、本書を読んでいて、そうかあの時の質問にはこう答えればよかったのか、と思い当たったのが(内ネタですいません)、

この「輒」は「機会があるたびごとに」という語感なのである。この語感を持つ別のことばに、「動」という副詞があり、この「動」とよくいっしょに用いられ、「動輒」という形で表れる。これは「ややもすればすなはち」と読み、「機会があるそのたびごとに」という感じで読みとるのである。この語感をもとにすると、「輒」はなにもいつでも接続詞として読む必要はない。「そのたびごとに」こうなる、と言うことは「たやすく」こうなる、という方向を含んでいるから、「たやすし」という形容詞と考えてもよい。

(156頁)
 あと、一箇所特筆すべきは、冒頭の「基礎編」で、優れた漢文参考書として「湯浅廉孫『初学漢文解釈ニ於ケル連文ノ利用』(朋友書店復印。ただしこの本は専門的すぎる)」(32頁)が挙げられていることです。わたしが持っているのは1941年に文求堂書店から刊行された元版でして、この朋友書店による覆刻版は知らなかったのですが、覆刻にあたって書名を少し変更しているようなので注意が必要。

漢文解釈における連文の利用 (朋友学術叢書)

漢文解釈における連文の利用 (朋友学術叢書)

 ともあれ、一般の人は読む必要のない、高度な内容の本ですが、これから中国古典を専攻しようとしている大学生等は習熟(挙げられている用例文もしっかり読みながら)しておいたほうがいいと思います。歯を食いしばってでも。大変なので第四章からでもいいです。でも、大変だといっても、記述の重複が多いので、読みとおしていくうちに頭に入ってくるのが妙味。湯浅氏の解釈には異論もあり得るでしょうし、70年前と比べて漢和辞典は格段に良くなっているとはいえ、連文の利用ということが非常に重要な提言であることは今後も変わりません。