沈約『宋書』の「哥」字

 清・王士禎『香祖筆記』(巻八)に、

顧鄰初雲:“沈約《宋書》凡歌字皆作哥字。”予昔官廣陵,於一士大夫家見趙鬆雪家書,凡哥字皆作歌字,蓋古通用也。

http://zh.wikisource.org/wiki/%E9%A6%99%E7%A5%96%E7%AD%86%E8%A8%98

 まず「雲」は「云」(簡体字繁体字自動変換ソフトでも使っているのかな)、「鬆」は「松」の誤り(趙松雪、つまり書の大家・趙孟頫のこと。大丈夫か wikisource・・・)ですが、それはさておき、『宋書』に関してちょっとおもしろいことを言っている。『宋書』では「歌」の字をみな「哥」にしているというのです。
 そんなわけないだろうと見てみたら、案の定「歌」字は本文中いっぱい出てきます。
 しかし、ちゃんと検索してみると「哥」字は巻十九(楽志一)にだけ現われるということがわかりました。

 『宋書』の「哥」の全135例(中央研究院のデータによる)の用例は全てこの巻に集中しているらしい。あまりにも多いので、面倒だから省文のつもりで「哥」を使ったのではないか、というくらいこの巻に出てくる。
 私は『宋書』は和刻本、中華書局点校本、百衲本しか持っていないので(仁壽本欲しいなぁ)諸本の異同についてはちゃんと言えないのですが、中華書局の校勘記や張元済『宋書校勘記』は何も指摘していないですし(武英殿本で「謌」になっている例があるらしいですけど)、和刻本でもたしかに巻十九では「哥」になっています。