新発見の漱石の書について

 文豪、夏目漱石(1867〜1916年)ゆかりの二松学舎大(東京都千代田区)は25日、漱石が禅語を墨書したびょうぶを購入したと発表した。一般には存在を知られておらず、漱石の書では最大規模。最晩年の、物事に動じない思想が分かる貴重な資料だ。
 びょうぶは二曲一双(計4面)で、1面の高さは162センチ、幅は80センチ。「夜静渓声近 庭寒月色深」(夜静かにして渓声(けいせい)近く、庭寒うして月色深し)など、禅宗の言葉を集めた「禅林句集」から、漱石が理想とした自然の情景を描く五言対句が草書体で4種類書かれている。

http://mainichi.jp/articles/20160125/k00/00e/040/181000c

 右より、
「始随芳草去/又逐落花回」
風狂蛍墜草/雨驟鵲驚枝」
「白鷺沙汀立/蘆花相対開」
「夜静渓声近/庭寒月色深」
 読み方は岩波文庫本『禅林句集』の221、257、251、264頁を御覧になっていただければ。
 ともあれ、春から始まって四季の景物をとりあげた禅語で構成されているわけで漱石の美意識をうかがいしることができて興味深い。
 ただし、「白鷺沙汀立/蘆花相対開」は少し解説を要します。鷺、砂浜、葦の花、と「白い」ものが並んでいる(葦が白いというのは「蘆雪」という熟語によっても了解されるところです)。これはただの叙景ではなくて、自他の区別や相対性といったものが消え去った相のことを言っている(少なくとも禅宗ではそのように意味づけている)わけです。「銀椀裏盛雪」(銀椀の裏〈うち〉に雪を盛る)や「白馬入蘆花」(白馬蘆花に入る)等も同じこと(これらの句も『禅林句集』に見える有名な句です)。
 『門』で参禅のことがあるように、漱石禅宗に対する造詣は深かったように思われますが、漱石自身はここに墨書した禅語をどのように理解したのでしょうね。近代文学に関しては無知なので、どこかで本人の発言があれば御教示お願いいたします。