St.Valentine's Day

St.Valentine  セント・ヴァレンチン。第三世紀のころのローマの殉教者。ひじょうに親切でやさしく、貧しい人、病人をあわれみ、またこどもたちを愛し、小鳥までもかれに親しみ、その手から食べ物を取って食べたほどであった。かれがすでに老境に入り、こどもたちとも遊ぶことができなくなったとき、かれはこどもたちにきれいなちょっとした贈り物を愛の音信とともに送った。この手紙や贈り物が valentine と呼ばれた(この意味では小文字で書く)。St.Valentine の祭日は2月14日で、St.Valentine's Day(セント・ヴァレンチン祭)と呼ばれる。この日に小鳥は、その配偶者(mates)を選ぶと昔考えられていたので、いまでも若い男女の間で罪のない愛の表示に利用され、贈り物などをする習慣がある。
    −−−井上義昌編『増補版 英米故事伝説辞典』

鳥がつがいを選ぶというのは、例えば Chaucer が、

For this was on seynt Valentynes day,
When every foul cometh then to chese his mate.

「聖ヴァレンタインの日で、どの鳥もやってきて配偶者を選ぶ」と歌っている通り、古い信仰でしょう。ところで、上の『英米故事伝説辞典』はさらに面白い風俗を紹介していて、

つぎにイギリスでは古い時代からこの St.Valentine の殉教の日のよい、数人の若い人たち、maids や bachelors がひと所に集まって、小さな billets の上にそれぞれ自分が知っている異性の名まえを書いて、これをある形の容器の中に入れ、そしてちょうど富くじのように、それぞれ異性のひとりを引くのだが、こうして引いた異性がその人の valentine(ここでは lover や sweetheart の意味)という風習が行なわれてきた。もちろん、そのばあい、ある人の valentine になった人が、他の人の valentine になることがしばしば起こったが、そのときは男性は自分を選んだ女性よりも、自分が選んだ女性を valentine とすることになっていた。

くじ引きに際しては、さまざまな趣向の不正が行なわれていたであろうことは想像に難くありません。