八犬伝のおねだり妻(「女謁内奏は、侫人の資なり」) 

 高級官僚のおねだり妻は、侫人の資なり。聞けば聞くほど腹の立つ話だ・・・。

かゝりし程に光弘は、こゝろ驕りて色を好み、酒に酖りて飽くことなく、側室媵妾多かる中に、玉梓といふ淫婦を寵愛して、内外の賞罰さへ、渠に問て沙汰せしかば、玉梓に賄賂ものは、罪あるも賞せられ、玉梓に媚ざれば、功あるも用られず。是より家則いたく乱れて、良臣は退き去り、侫人は時を得たり。そが中に、山下柵左衛門定包といふものありけり。……光弘これを召出して、近習にぞしたりける。現女謁内奏は、侫人の資なり。柵左衛門定包は、陽に行状を慎て、陰に奸智を逞し、栄利を謀る癖者なれば、初より玉梓に、侫媚ずといふことなく、渠が好む物としいへば、価を厭ず贈る程に、漸々に出頭して……

――『南総里見八犬伝』巻一(第二回)