紅葉に鹿(4)
鹿と紅葉した萩の取り合わせは初秋から中秋にかけての風物ですが、紅葉に鹿(1)で取り上げた謡曲「紅葉狩」の場面のように、晩秋の落葉のなかに鹿が描かれることも多いです。
龍田山 梢まばらに なるままに 深くも鹿の そよぐなるかな
(『新古今和歌集』秋下・俊恵)紅葉で有名な龍田山の木々の梢の葉が散ってまばらになるにつけ、落ち葉を踏み鳴らして鹿が山奥深くに入っていく情景を想像した歌。
蒼苔路滑僧帰寺 蒼苔路滑らかにして僧寺に帰る
紅葉声乾鹿在林 紅葉声乾いて鹿林に在り
(『和漢朗詠集』上巻・鹿)静寂のなか、聞こえてくるのは、一面に積もった落葉を鹿が踏む音だけ。この詩句の伝統的な解釈では、「今ハ、木葉皆、零落シテ無レハ」(書陵部本『朗詠抄』)と、すでに紅葉は全て散り落ちているものとして捉えています。
冬はすぐそこです。