紅葉に鹿(1)

面白や頃は長月二十日あまり、四方の梢も色々に、錦を彩る夕時雨、濡れてや鹿のひとり鳴く、声をしるべの狩場の末、げに面白き気色かな。

(「紅葉狩」)
 「不是花中偏愛菊 此花開後更無花」(『和漢朗詠集』「菊」)、菊が咲き終わったら春までほかに花はない、ということで、花札でも残りの三ヶ月は「花」の札ではありません。十二月の桐に花が咲いているではないか、と指摘されそうですが、桐の花は五月頃に開花します。
 紅葉の10点札。鹿が横を向いていることから、俗語「しかと」(紅葉の10点札ということで、「鹿十」)の由来がこの札であると喧伝されていますが、私は疑っています。鹿は取り合わせの景物である紅葉のほうにちゃんと視線をやっているのですから、そっぽを向いているわけではありません。これが、無視する、を意味する言葉の語源になりうるでしょうか。