萩に猪(2)で紹介した俊頼・仲実の歌にある通り、古典における伝統的な取り合わせは萩と鹿であって、萩と猪ではありません。
「秋萩を 妻問ふ鹿こそ・・・」(『万葉集』巻九・1790)などとあるように、萩は鹿の妻なのです。
我が岡に さ牡鹿来鳴く 初萩の 花妻問ひに 来鳴くさ牡鹿
(『万葉集』巻八・1541、大伴旅人)
――我が岡に牡鹿が来て鳴いているよ。萩に妻問いをしに牡鹿が来て鳴いているよ。
萩を猪に奪われた鹿の心中やいかばかりか。紅葉の10点札に描かれている鹿が哀愁を帯びているように見えるのは、気のせいでしょうか。