続々・万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏

 これも毎年の恒例記事になってきたかな?→ 万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏 - Cask Strength続・万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏 - Cask Strength
 今回も 国会会議録検索システム を利用いたしました。以下の一覧表は、日時と歌番号、そして歌(表記は議事録のママ。後述)です。3月5日には、同日に万葉歌が5回披露されるという、おそらく憲政史上初の珍事が。
 細かいことですけど、1814歌(3月5日)の「植え」の仮名の誤り(正しくは「植ゑ」)は入力時の誤りでしょう。

  • 平成24年02月16日 巻八、1426。我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
  • 平成24年02月27日 巻五、849。残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消(け)ぬとも
  • 平成24年03月01日 巻十八、4134。雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも
  • 平成24年03月05日 巻十、1824。冬ごもり春さり来らしあしひきの山にも野にもうぐひす鳴くも
  • 平成24年03月05日 巻十九、4140。我が園の李の花か庭に落りしはだれのいまだ残りたるかも
  • 平成24年03月05日 巻二十、4300。霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ
  • 平成24年03月05日 巻十四、3399。信濃道(ぢ)は今の墾(は)り道(みち)刈りばねに足踏ましむな沓履け我が背
  • 平成24年03月05日 巻十、1814。いにしへの人の植えけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし
  • 平成24年03月06日 巻八、1437。霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ
  • 平成24年03月21日 巻四、694。恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から
  • 平成24年03月22日 巻二十、4434。ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく
  • 平成24年04月12日 巻十、1872。見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも
  • 平成24年04月18日 巻十六、3786。春さらばかざしにせむと我が思ひし桜の花は散り行けるかも
  • 平成24年05月24日 巻十九、4152。奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさねますらをの伴
  • 平成24年06月05日 巻三、255。天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ
  • 平成24年06月12日 巻二十、4448。あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ
  • 平成24年06月15日 巻十、1959。雨晴れし雲にたぐひてほととぎす春日をさしてこゆ鳴き渡る
  • 平成24年06月20日 巻七、1088。あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる
  • 平成24年07月31日 巻七、1089。大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲
  • 平成24年11月16日 巻十、2217。君が家の初もみち葉は早くふるしぐれの雨にぬれにけらしも



 さて、前回、前々回いずれも気になったのが、橘議員(あるいは議事録作成者)は一体どの『万葉集』のテクストに依拠しているのであろうか、という点でしたが、このたび新たに核心的なことに気づきました。
 注目したいのは何といっても11月16日の2217歌です。この歌は第二・第三句が難解の箇所として知られていまして、いまだに定訓がありません(原文は「之黄葉早者落」(西本願寺本など大部分)とあって、とにかくこのままでは読むことは不可能なので、誤字説や脱字説を出して処理するのが普通です)。
 そこを橘議員は「初もみち葉は早くふる」(はつもみちばは はやくふる)とよんでいます。実は、こうよむ説(「之」を「初」の誤字とする)はある一人の学者の創見にかかります。それが、ちょうど先日 Amazon に消された本を救出したい - Cask Strength で言及した佐佐木信綱その人であり、こうよむのは信綱の注釈書以外にはないようです。

(話題になった岩波文庫『新訂 新訓 万葉集 上巻』435頁)『評釈万葉集』を使っているとは少し考えにくいので、この岩波文庫本を利用しているのでしょう。
 なるほど、そういう目で見れば、たとえば1824歌(3月5日)「来らし」、4300歌(3月5日)「楽しとぞ」、1959歌(6月15日)「雨晴れし」等は、いずれも現在の通説「来れば」「楽しとそ」「雨晴れの」とよむのが妥当だと思うのですが、佐佐木注では「来らし」「楽しとぞ」「雨晴れし」で合致しますね。
 なんだ、これで問題は解決したじゃないか!と思われるかもしれませんが、実はそう簡単ではない。どうも、何種類かの本を取り合わせているのではないかというフシが相変わらずあります(橘議員本人ではなく、部分的に議事録作成者の関与を疑っているのもそのためです)。まあ、3399歌(3月5日)とかね。
 真剣に検証すれば答えも出るかもしれませんが、そこまでのことではないので、また次回以降の宿題ということでw
 【追記】 続々々・万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏 - Cask Strength