続々々・万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏

 新副大臣に多額の借金を抱えている議員がいるんだけど、大丈夫?/閣僚資産公開制度 - さようなら、憂鬱な木曜日
 久しぶりに橘慶一郎氏のお名前を見かけました。自営業をしていたら個人で借入をすることもあるでしょうし、よくわからないのですが、まあ、説明なさるといいかと思います。
 というわけで、前回の記事(続々・万葉集(衆)議員、橘慶一郎氏 - Cask Strength)から間があいてしまいましたが、平成25年以降に国会審議の場で披露された万葉歌の一覧を挙げておきますね。例のように、歌の表記は議事録のママです。

  • 平成25年03月19日 巻五・829。梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや
  • 平成25年03月21日 巻十・1883。ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる
  • 平成25年05月21日 巻十・1940。朝霞たなびく野辺にあしひきの山ほととぎすいつか来鳴かむ
  • 平成25年05月30日 巻十七・4024。立山の雪し消らしも延槻の川の渡り瀬鐙つかすも
  • 平成25年11月07日 巻八・1584。めづらしと我が思ふ君は秋山の初黄葉に似てこそありけれ
  • 平成25年11月22日 巻十・2215。さ夜更けてしぐれな降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも
  • 平成26年02月21日 巻八・1434。霜雪もいまだ過ぎねば思はぬに春日の里に梅の花見つ
  • 平成26年06月16日 巻十六・3837。ひさかたの雨も降らぬか蓮葉に溜まれる水の玉にあらむ見む
  • 平成27年03月09日 巻十七・3903。春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも
  • 平成28年04月07日 巻八・1440。春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ
  • 平成28年05月24日 巻十八・4109。紅はうつろふものぞ橡のなれにし衣になほしかめやも



 平成25年05月30日の総務委員会はおもしろくて、急遽質問に立つことになったようで事前に万葉歌を準備していなかったようなのですが、

事前に通告された場合にはしっかり歌も決めて詠むんですけれども、やらせていただくんですが、先ほどちょっと耳打ちされておりましたので、慌てて、頭の中にある万葉集を一首詠ませていただきたいと思います。(中略)巻の十七になるかと思いますが、山の話がございました。立山の雪解け水で川が大変増水していて、馬でそこを渡ろうとしたらあぶみに水が付いたという歌を一つ詠ませていただきます。

と、4024歌をソラで詠んでいます。
 それはさておき、氏の使用テクストは佐佐木信綱『新訂 新訓万葉集』(岩波文庫)ではないかと前回推定しまして、今回もその推定を補強する材料が出てきました。3837歌です。

 第五句は諸本に「玉似将有見」とあるのですが、現在では「若将有ノ二字ヲ有将ニ作ラハ、今ノ点ニテ読ヘシ」という『万葉代匠記』(精撰本)の一案を採用し、つまり「玉似有将見」に改めて「玉に似たる見む」などと訓むのが普通です。*1
 しかし、興味深いのは前述の4024歌ですね。佐佐木はこの第二句を「雪し来らしも」としています。『万葉集』の原文表記は「由吉之久良之毛」なので「ゆきしくらしも」とよむことは確実なのですが、佐佐木は「くらしも」を「来らしも」と理解している。しかし、最近の通説では「くらしも」を「消らしも」と解しています(語法的には特殊な例ということになります)。橘副大臣も「立山の雪解け水で」云々と言っていますし、議事録の表記では「消らしも」となっているので、佐佐木の理解を採らなかったことになる。『万葉集』を本気で勉強されているように見受けられます。

*1:新大系は「原本文を「玉似将看見」と推測し、タマニニルミムと訓むことにする」と。