岩波文庫『原文 万葉集(上)』

原文 万葉集(上) (岩波文庫)

原文 万葉集(上) (岩波文庫)

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 一度関わったがゆえにこんなことになっているこのネタもあと1回で終わりかしら・・・がんばれオレ・・・
 ともあれ、『万葉集』に関心のある方は本書(巻一から十までの原文編)も御覧になるとよろしいかと。巻一から通覧していくと巻五に入った途端にその(表記上の)異常さがわかりますし、巻七とか巻十の一部もそれまでとちょっと違うなぁ、と実感することでしょう。歌を文字(漢字)で書く、そしてそれを読む、というのはかように大変なことであったわけですね。
 さて、例のように、以下は当座で気づいたことだけの話ですよ。

また本書の校注者の創案にかかるものについては、すでに新日本古典文学大系萬葉集』に示した改訂は「新大系ニヨル」と記し、岩波文庫版『万葉集』において追加されたものには、意味のうえからの改訂をいう「意改」の語を記した。

(解説、472頁)
 だとすれば、256(「尓波好(意改)― 舳尓波」)、2189(「之(意改)― 毛」)、2338(「屋(意改)― 敢」)はいずれも「新大系ニヨル」(あるいは2189は「塙ニヨル」とか)とすべきことのように思えますが、私がなにか勘違いしているでしょうか。
 一方、1032題詞の改訂(「浅(意改)― 残」)はこの原文編を読むまで気づきませんでした。

題詞の「狭浅」は諸本「狭残」。古代の地名で訓字と音仮名を混ぜるのは一般的ではないので、「残」を誤字と見て改める。

(『万葉集(二)』211頁)なるほど。ただ、そこまで強く主張できるものなのかどうか。


 ところで、気になったのは「目録」の部分の本文異同が原文編でまったく示されていなかったことです。目録は後世の作なので割愛したのでしょうか。それは一つの見識だと思いますが、(一)〜(五)においてもあまり注記はなされていなかったように思われるので、少し残念です。


 一つ面白かったことですが、巻五・831の作者名注記「壱岐守板氏安麻呂」の「板」に対して、

板(西イ広細)― 字形不分明。榎カ板カ

とあったので、思わず影印本で確認しましたよ。

(『西本願寺本萬葉集(普及版)巻第五』39頁)イ本が「板」であることはたしかに明白です。
 影印本の翻刻は「榎」にしています(同書98頁)。それでいいように思われますが、みなさまの意見はいかがでしょうか。