人名用漢字をめぐる混乱――「妖精」


私信で連絡して済ませてしまったことですが、ここにもアップしておきましょう。おれおれさん、「妖精」というのは、ことば自体は悪い意味ですよ・・・。
「妖精」といったら、現代人なら Tinkerbell みたいなものを思い浮かべますよね。親指姫の西洋版。RPGが好きな人なら、もっと馴染みがあるでしょう。
しかし、漢語「妖精」は、もともと「化け物」くらいの意味。例えば、本場の作品でいけば、『西遊記』にも至るところに「妖精」が登場しますが、「妖怪」とほとんど同類の扱いですね。我が日本でも、馬琴『夢想兵衛故蝶物語』の一節、

九つの日輪は烏の妖精、真の日輪にてはなし

の「妖精」の訓(ルビ)は、はっきりと「ばけもの」。「ばけもの」だから討伐の対象になってしまう。唐代の詩人・皎然の「報烏程楊明府華将赴渭北対月見懐」詩の第5・6句、

聞説武安君  きくならく 武安君の
万里駆妖精  万里に 妖精を駆りて (7・8句以下省略)

「武安君」は秦の将軍、白起のこと。「わたしはこう聞いている、昔、武安君が国内外で妖精どもを追い払って・・・」という部分。
これで、今回の人名用漢字選定作業には二つの基準が並存していることがわかります。

  1. 「屑」の原義には、良い意味もあるからオッケー
  2. 「妖精」は、現代的な感覚では必ずしも悪い意味ではないからオッケー

これは「原義基準」と「語感基準」(「語感」というのは、現代語での語感)と言い換えられそう。このどちらかにでも合格すれば、いいということのようです。基準がありそうで、その実は、人の主観におおいに頼り切る無基準ともいえます。