私家版

 文学の世界ですと、私家版の研究書や資料集の類は珍しくありません。
 今でこそ自費出版は盛んで、校正・印刷も楽なのでしょうけど、一昔前の私家版研究書になると例えば謄写版が当たり前なので、製本に至るまでの苦労が偲ばれるものばかりです。
 さきほど入手した世良亮一氏『凌雲集詳釈』もそんな私家版の注釈書ですが、その序文が泣ける。

(前略)断じて私の説が正しいと思う箇所や私の説の方がよくはないかなと疑われる所など三十箇所程あった。そこで私の意見を公にすることは意義のないことではないと思って久松先生に懇願して世に出して頂くようにした。この書が出版の運びに至ったら全く澁谷・久松両先生のおかげであり、深く感謝の意を表するものでありますが久松先生の叢書のお企も中々実現が容易でなさそうなので仮にプリント印刷に附して刊行することにした。

 結局、手書き原稿の「プリント印刷」を製本したこの私家版が出たのみで、「出版の運び」には至りませんでした。