梅に鶯(1)
梅にウグイスという取り合わせは万葉集からある、というように説明されていますし、もちろんそれは正しいのですが、この札に描かれているのは紅梅ですから、この背景を説明するのに万葉歌を持ち出すのは問題があります。というのも、奈良時代の日本には白梅しか存在せず、紅梅は九世紀頃になってようやく大陸から移植されたようなのです。
紅梅と鶯に対するこまやかな愛情を詠んだ歌が伝わっています。
宮中からある人の家にあった紅梅を掘って献上させようとしたところ、鶯が巣作りをしていたので、家の主人である女が歌を詠んで、
勅なればいともかしこし鶯の宿はと問はばいかが答へむ
――陛下の仰せなので畏れ多いことです。しかし、もし鶯が「わたしの宿は・・?」と尋ねたならば、どう答えましょうか。
この歌が奏上された結果、梅はそのまま残されることになったとのこと(『拾遺和歌集』雑下)。十世紀頃の出来事です。
今でもこの鶯の子孫は、同じ梅の子孫に宿を借りているのでしょうか。