藤にホトトギス(2)

 藤の5点札、短冊には何も書かれていません。詩歌が書かれていない短冊というのも、何か間が抜けているような感じがします・・・。
 十世紀頃の平安京でのお話。
 宇多法皇の邸宅であった亭子院には妃が多く住んでいたが、ある日法皇は河原院という別の邸宅を造営し、そこに藤原褒子という妃一人を連れて移ってしまった。
 亭子院に取り残されたほかの妃たちは寂しい思いをしていました。「藤の花が満開になって見事なのに、御覧にならないとはもったないなあ」と亭子院に参上した殿上人たちが邸内を見て歩いていると、藤に手紙が結びつけてあった。そこには、

世の中の浅き瀬にのみなりゆけばきのふのふちの花とこそ見れ

――法皇さまとわたくしの関係も浅いものになっていきます。今日のこの満開の美しい藤だって、すぐに昨日の藤となって移ろってしまうように、深い淵のように深かった御寵愛も、もう過去のもののようです。*1(『十訓抄』巻八)

*1:「昨日のふち」の「ふち」は「藤」と「淵」の掛詞。「世の中はなにか常なるあすか川昨日の淵ぞ今日は瀬になる」(『古今和歌集』雑下・よみ人知らず)を踏まえる。