萩に猪(4)

 京都の西を守護する愛宕神社の神使が猪であることはよく知られており、十一月に行なわれる亥猪(いのい)祭では、火除けの効験があるという亥の子の御符がもらえます。
 愛宕の神使が猪となった由来については諸説あるようで、井上頼寿『改訂京都民俗志』は三つの伝説を紹介していますが、そのうちの一つに、

愛宕は樒と萩の名所であるが、獅子に牡丹が付き物のように、萩に猪は不可離の物で、同山には猪が多いのであると。

とあるのが興味をひきます。
 しかし、この起源譚には疑問を感じています。たしかに、愛宕は、

愛宕山 しきみの原に 雪つもり 花つむ人の あとだにぞなき

(『好忠集』冬・十一月下)とあるように、樒(しきみ)で有名です。しかし、萩の名所でしょうか。
 また、萩に猪(3)で述べた通り、萩に猪という取り合わせは文学的な価値観からすれば特殊なものです。説明の仕方としては感性が新奇というか、「俗っぽさ」を感じます。
 もちろん、貴族的な発想にとらわれていないからこそかえって信憑性があるのだ、という捉え方も可能でしょう。愛宕付近にお住まいの方には是非取材してもらいたいところです。