芒に月(2)

 芒の10点札、ススキの原の上を三羽の雁が飛ぶ。

おちる木の実の夜をこめて
納戸で蟲がなきあかす。

わたる野分にさらさらと
月さす背戸のすすき原。

がんがんがん、かりがねさん
わたる月夜の、かりがねさん。

水瓜ぬすつとみつけたら
がんがんがんと、鐘ならせ。

(吉田一穂「かりがね」)
 春は鶯、夏はホトトギス、そして秋を代表する鳥が雁ということになります。秋に北方から列島に飛来し、春に去ってしまうので「花なき里に住みやならへる」(『古今集』春上・伊勢)と怪しまれてきましたが、秋にやって来ることには複雑な事情があるようで、

秋萩は 雁に逢はじと 言へればか 声を聞きては 花に散りぬる

(『万葉集』巻十・2126)――秋萩は、「雁には逢うまい・・・」と言っていたからなのか、雁の声を聞くとむなしく散ってしまうよ。
 萩は、鹿の妻です。*1

*1:萩に猪(3)