菊に盃(2)
5点札は、菊に短冊。
深き秋のあはれまさりゆく風の音身にしみけるかな、とならはぬ御独り寝に、明かしかねたまへる朝ぼらけの霧りわたれるに、菊のけしきばめる枝に、濃き青鈍の紙なる文つけて、さし置きて往にけり。いまめかしうも、とて見たまへば、御息所の御手なり。
(『源氏物語』、葵)
ただし、平安時代における嗜好の傾向から考えると、ここで六条御息所が贈った菊は、花札に描かれているような黄菊ではなく、白菊であった可能性が高いです。
実際、『源氏物語』には白菊に言及したものが多く、例えば、紅葉賀の巻では源氏と頭中将が「菊の色々うつろひ、えならぬをかざして」青海波を舞いますし、藤裏葉の巻でこのことを回想している二人は菊を折って歌をよみあうのですが、大臣(頭中将)の歌に、
むらさきの 雲にまがへる 菊の花 にごりなき世の 星かとぞ見る
とあることから、これも白菊が紫に変色したものを詠んだことが明らかです。