魯迅《古小説鈎沈》手稿


 大陸で刊行される影印(写真複製)本というのは「粗悪品」の代名詞みたいなもので、写真が悪くて字が判読できず、買うだけ無駄という時代が長らく続いていたのですが、最近の中文書は紙の質が飛躍的に向上したのとあいまって、利用に堪える影印本が増えてきましたね。喜ばしいことです(そのかわり価格も高くなってきたのですが・・・)。本書も鮮明なカラー写真を使っています。
 魯迅『古小説鈎沈』の活字本は何種類かあって、まあどれを使ってもいいのですが、どうも本文の具合の悪い箇所が多く、活字にした段階での問題なのか魯迅の草稿の段階でこうなっているのかよくわかりませんでした。活字本だけで用は足りる、と思わずに、この魯迅自筆草稿を見ることでいろいろと得ることがあると思います。
 たとえば上の写真は、『語林』の「王藍田少有癡称、王相丞以門第辟之・・・」の箇所ですが、活字本では出典を「御覧二百四十九、又四百九十」(『太平御覧』巻249と巻490)とだけ記していますが、草稿では上記二つに加えて「書鈔六十八」(『北堂書鈔』巻68)も挙げられています。ついでに言うと、活字本のなかには「門第」を「門地」にするものもあります(人民文学出版社版)。それらを手がかりにいろいろと見比べてみると、なかなか興味深いことがあるので、関心のある方はちょっと調べてみてください。