「甲南女子大学蔵鎌倉初期古今集写本」報道内容補注

 昨日大々的に報道された古今集の鎌倉期写本の話ですが、各報道機関が一般の人に向けてわかりやすく書こうとしたためか、逆にわかりづらい記述になっているところがいくつか目についたので、老婆心ながらの補足です。

収録された計1111首のうち46首は上の句と下の句の分け目があいまいな平安時代の手法であること

 たとえば以下の高野切(11世紀頃か)などは、「ちりをたにすゑしとそおもふさき/しよりいもとわかぬるとこなつの花」とあって、上の句の最後「さきしより」の途中で改行されています。

 定家は『下官集』の「書哥事」のなかで、上の句の最後の字を次の行の始めに持ってくるような書き方は読みにくいので、上の句と下の句で切って改行したほうが良いと述べます。

和歌の説明などは平仮名と漢字の両方が巻頭にある形式で

 「和歌の説明」というのは「序」のことで、真名序と仮名序が巻頭にあるということならば、これは俊成本(俊成は定家の父です)の形式と同じだというのが興味深い。

浅野徹准教授

 浅田徹先生です。人名には重々気をつけるように。

現存する定家自筆の写本以外のものを写したものであれば定家研究の手がかりにもつながり、価値は高まるだろう

 いろいろなことが考えられますが、序の問題でいえば、定家本でも貞応二年本には真名序はありますが、嘉禄二年本や伊達家本にはありません。しかも、貞応二年本は仮名序が巻頭にあって真名序は巻末に置かれているので、報道が正しければ、定家本の系統のなかでは異色ではないでしょうか。

選に漏れた11首

 「墨滅歌」のことです。

晩年の定家と異なり歌を2行で記載

 定家は、勅撰集の場合は原則として和歌一首一行書きにします。