東大前期入試の漢文の問題「放旅雁」を読む
今年は白楽天の詩から問題が出たということで見てみました。『白氏文集』巻十二(感傷)。「長恨歌」や「琵琶行」(琵琶引)が入っているのと同じ巻です。
http://nyushi.yomiuri.co.jp/11/sokuho/tokyo/zenki/kokugo_bun/mon3.html
「生売之」(生きながらこれを売る)というのがやはりドキっとします。この時点ですでに死んでいたならば、白居易もここまで心を動かされなかったのではないか。この「生売」という表現は『佩文韻府』にも採られ、この「放旅雁」詩のみが用例文として挙がっています(正編)。
ところで、網にかかり、人の手に落ちた鳥を救うという発想は、古くは曹植の「野田黄雀行」にもありますね。曹植もまた鬱積の人でした。
白居易の作品の日本文学への影響を調べるには、少し古いですけど、水野平次著・藤井貞和氏補訂『白楽天と日本文学』が便利で、この「放旅雁」に関しては菅原道真の「聞旅雁」詩(『菅家後集』)に影響を与えたのではないかと述べています(102〜103頁)。
我為遷客汝来賓
共是蕭蕭旅漂身
欹枕思量帰去日
我知何歳汝明春
日本漢詩の選集には割とよく収録されている作品でして、道真の代表作の一つと目されているのでしょう。しかし、注で「放旅雁」との関係を説明したものは見かけません。それもそのはずで、
この一首、前二句で自分と雁が類似した境遇にあることを述べたうえで、後二句で両者の決定的な違いを指摘し、都に帰る希望のない身の上を嘆く。
(小島憲之・山本登朗『日本漢詩人選集1 菅原道真』、149頁)と言う通り、雁に対する同情の質が少し異なるので。
それでも、道真詩には旅する雁がよく出てきます。大宰府への左遷という個人的な事情とは別に、さすらう雁に自らを重ねあわせるという白居易の手法にかなり早い段階で触発されたことは、間違いないと思うのです。
なお、twitter でもつぶやきましたが、新釈漢文大系『白氏文集 二下』では、第八句「手携」を、金沢文庫本の「手提」に従って改めています(776頁)。
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