学会の研究発表会に行くメリット――声に出して読みたい学術用語

 一般人にはあまりなじみがないでしょうけど、人文系の学会はだいたい春と秋(あるいはどちらか)に大会を行なうことが多く、五月以降はまさに「学会シーズン」といえる時期です。
 今月は所属学会の大会が一つあるのですが、他の週末も、後輩の応援と、とある打ち合わせのために某学会行事に出席します。
 学会行事に参加するメリットは、最新の研究成果を拝聴できるというだけでなく、懇親会でいろいろな人と親睦を深めて情報を交換できるという点が大きいのですが、教壇に立つなど人前で喋る機会が増えてきたところで別のメリットにも気づきました。
 学会の共通理解として、あるモノをどうよむのか、ということを学ぶことができるのです。
 文章で書くだけなら気にとめなかった表現や語句も、いざ「音読せよ」と言われたら「えーと、どうよめばいいかな・・・」と思うことが結構あるのです。
 一例。出土資料や写本などで、字があることはわかっても虫喰や欠損のために判読できないことがあり、そういう個所を翻刻する時は「□」という記号で示すのが一般的です。
 この記号を出すために私は「しかく」(四角)と入力して変換するのが常なので、自分の心のなかではこの個所のことを「シカク」と勝手によんでいたのですが、昔、某歴史学系研究会に顔を出したときに、発表者が「□」の部分を「ハコ」(箱)とよんでいたので、ちょっと新鮮な驚きでした。その学会独自の流儀である可能性ももちろんありますが、こういうことを知っておけば、少なくとも我流よりは恥をかく可能性が減ると思うのです。
 なので、特に専門外や隣接分野の学会で口頭発表を聞くというのは結構大事なことではないかと感じています。まあ、私の反省点です。
 その努力を怠っているために、読みに自信がないものが多い。たとえば、官位の「正○位」の「正」、これなどは私は「しょう」でいいのではないかと思っていたのですが、

[高橋]「正三位」の「正」は「ジャウ」と読むのですか。先生は濁られましたが。
[山田]人の位の時は「ジャウ」といふのです。「シャウ」といふと神様の位の読み方になります。

(荊木美行氏『令義解の受容と研究』(神宮皇學館大学『令共同研究会記録』第一回)10〜11頁)というのを読むと、ひょっとしたら法制史関係の人たちは、日本思想大系『律令』頭注が言及する故実書のように「じょう」と濁音でよんでいるのではないか、と不安になります。
 あるいは、訓法の一つとして知られる「淳祐点」。これは石山寺の淳祐とその流派による加点法ということになりますが、「淳祐」は「しゅんにゅう」なのだろうとは思います。でも、「じゅんゆう」(『総合仏教大辞典』)かもしれないし、「しゅんゆう」(『国書人名辞典』)かもしれない(淳祐 - Cask Strength)。『白氏文集』などは、今では専門家の前で「もんじゅう」などとよんだら笑われかねない風潮です。厄介ですね。