『全漢三国晋南北朝詩』という化石
- 作者: 劉義慶,井波律子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2014/05/09
- メディア: 単行本
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これも郭璞のすぐれた予知能力をテーマとした話である。ここに引かれた詩は「全晋詩」にも収録されておらず、出典は未詳だが(後略)
(195頁。「術解」篇第7話の注)
なお、「ここに引かれた詩」というのは、
北阜烈烈
巨海混混
塁塁三墳
唯母与昆
(北阜烈烈、巨海混混、塁塁たる三墳、唯だ母と昆とのみ)を指しますが、それはともかく、「「全晋詩」にも収録されておらず」というのが少し驚きました。
「全晋詩」というのは、漢から隋までの詩を集大成することを目指して編まれた丁福保『全漢三国晋南北朝詩』を構成する一部なのですが(漢〜六朝時代の王朝名とともに「全〇詩」と出てきたら、本書を指します)、本書は遺漏が多くて校訂も行き届かず、出典の表示も不十分極まりないので、逯欽立氏の労作『先秦漢魏晋南北朝詩』が世に出ると、その歴史的使命を終えました。目下、六朝詩を概観するテキストとして『全漢三国晋南北朝詩』を利用している人はほとんどいないはずです。化石を発掘した気持ち、というのはまあそういうことです。
(『全漢三国晋南北朝詩』の郭璞の項(一部)424〜425頁)
(『先秦漢魏晋南北朝詩』にはもちろん当該作品がちゃんと収録されていますが、出典が「文学篇」に誤っていますね。上述したように、正しくは「術解篇」。868頁)
なので、井波氏がここでこの化石を持ち出した理由がよくわからないのですが、「「全晋詩」にも収録されておらず、出典は未詳だが」というのも少しわかりづらい文章でして、つまりは、この「北阜烈烈・・・」詩は『世説新語』以外の他書に見られない作品である、ということをおっしゃろうとしているようなのですが、そうだとすれば一般読者に誤解を与えかねない書き方だと思います。
ただし、化石といっても、全く利用しないわけではありません。松浦崇氏『全漢詩索引』『全三国詩索引』『全晋詩索引』『全宋詩索引』はいずれも底本が『全漢三国晋南北朝詩』なのです。現在では『先秦漢魏晋南北朝詩』を検索するツールもありますけど、底本が異なれば索引は何種類あっても構わない。用例探しの時は、私はこの『全○詩索引』も欠かさず利用しています。そういう点では「生きた化石」といえるのかしら。
松浦氏の一連の索引が途中から底本を『先秦漢魏晋南北朝詩』に変更したのは、当然の処置とはいえ、少しもったいない気もします(こんな感想も所詮はアナクロニズムですが)。
逯欽立の『先秦漢魏晋南北朝詩』の出現は衝撃的であった。これが丁福保の『全漢三国晋南北朝詩』よりも数段勝れていることは、多言を必要としない。そこで、諸先生方のすすめもあって、テキストを丁福保本から逯欽立本に変更することに決定した。
ところがここに、二つの問題が生じた。一つは、すでに編纂が進んでいた晋・宋の索引をどうするかである。思い切って、一からやり直そうとも考えた。しかし、多くの学生諸君が作ったカードの山を前にして、その決断ができず、晋・宋までは丁福保本を用いることになった。将来、時間の余裕があれば改めて作り直すつもりだが、幸か不幸か、丁福保本の生命を伸ばす結果になったのではないかと思っている。
(『北魏詩索引』序)
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